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【サマリーレポート】猫のCKDの成り立ちと尿細管間質性腎炎に対する薬物療法戦略

サマリーレポート

岡山理科大学獣医学部獣医学科 獣医内科学Ⅰ講座 教授

今回、2025年5月5日(月)~6月8日(日)まで配信しておりました、星史雄先生によるセミナー内容からサマリーレポートを作成いたしました。
ご講演内容のポイントをまとめておりますので、よろしければご覧ください。

CKDと予後について
IRISによるCKDステージ分類ではGFRの指標であるCreとSDMAを用いてⅠ~Ⅳに分類されますが、さらに尿蛋白と血圧でサブステージを分類しています。

図1A、図1B※1はそれぞれ、治療開始時のCre濃度とUPC比に応じたCKD猫の生存期間の違いを示したものです。このように初診時のCre濃度、UPCの値が高いほど、寿命は大幅に短くなります。同様に血圧も平均寿命に関係しており、極度の高血圧は目や脳など腎臓以外の臓器に障害を与える可能性があります。これらの理由から、IRISではサブステージ分類にUPCと血圧を使用しています。

CKDの進行因子とRAAS阻害剤
RAAS阻害剤であるテルミサルタンをCKD猫に対して投与し、投与前と投与後30、60、90日目の血圧(図2A)とUPC(図2B)を測定した研究があります※2

この結果から、テルミサルタン投与によって、CKDの進行因子である血圧・UPCが共に有意に減少したことが明らかとなり、このことからテルミサルタンはCKDの進行を抑制すると考えられています。

尿細管間質性腎炎とは
猫のCKDでは慢性尿細管間質性腎炎が生じていることがほとんどです。

尿細管間質性腎炎は様々な原因で発症しますが、尿細管細胞の損傷によって炎症が生じ、炎症が間質に向かって波及します。この炎症は糸球体濾過量(GFR)を低下させることなく広がり、尿細管機能不全を引き起こします。さらにこの炎症反応は間質の線維化を引き起こし、線維が周囲から尿細管を圧迫するようになるとGFRの低下が認められるようになります。慢性尿細管間質性腎炎とは、この間質の線維化と強く相関していると言われています。

慢性尿細管間質性腎炎に対する治療では、GFRの低下の有無に関わらず、この線維化を阻止することが非常に重要です。

慢性尿細管間質性腎炎とRAASの関係
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)はCKDの発生や進行に深く関わっており、多くの悪影響を及ぼします。特に過剰なアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)とアルドステロン(Aldo)は有害作用を持っています。RAAS有害作用として高血圧、糸球体での過剰濾過、尿タンパクの排泄増加は一般的に知られてますが、その他にも酸化ストレス、マクロファージの浸潤、間質の線維化にも深く関わっていると言われています。

RAASは全身血圧の調節因子であり、腎臓の灌流圧の低下や交換神経のβ1‐アドレナリン受容体刺激により活性化されます。RAASが活性化されると腎臓からレニンが分泌され、レニンは肝臓のアンジオテンシノーゲンを分解してアンジオテンシンⅠを生成し、さらに肺の変換酵素によりアンジオテンシンⅡとなります。アンジオテンシンⅡは血管収縮と、副腎を刺激することでアルドステロンを分泌して、体液を保持しようとします。つまり、RAASの活性化によって血圧上昇が起こります。

RAASには全身性と局所性が存在し、全身性RAASは血圧や電解質バランスの機能的変化を担う急性調節の役割を果たします。局所性RAASは組織で発現し、腎腫大や腎血管肥厚、腎臓硬化などの組織の構造変化に関する慢性調節を担っています

腎臓における炎症反応とRAASの関係
腎臓においてRAAS活性によりどのようなことが起きるのかを、図3にまとめました。まず、全身性のRAASは最終的にアンジオテンシンⅡを生成し、アンジオテンシンⅡは高血圧を引き起こします。局所性RAASもアンジオテンシンⅡを生成し、腎臓内で炎症性サイトカインを誘導することで細胞浸潤・間質の線維化を促進します。

また、全身性・局所性RAASによって誘導されるアルドステロンは、尿中タンパク質の排泄と強く関連しています。アルドステロンは腎臓内で炎症性サイトカインを誘導し、炎症を引き起こします。さらに、アルドステロンによって増加したタンパク尿は、尿細管間質内でフリーラジカルを生成することで炎症を助長させます。

ここまでの話をふまえた猫CKDにおける治療戦略
ここまでお話した通り、猫CKDは慢性尿細管間質性腎炎が生じていることがほとんどであり、この尿細管間質性腎炎では間質の炎症が起こり、その後初めてGFRが低下し始めます。間質の炎症では間質への細胞浸潤や線維化が起こりますが、この初期段階こそ、猫CKDの治療標的であると言えるでしょう。

RAASには全身性・局所性が存在しますが、特にCKDの腎臓内では局所性RAASが活性化されることでアンジオテンシンⅡが生成され、腎臓内のサイトカインが増加します。RAAS活性によって誘導されるアルドステロンも腎臓内で炎症性サイトカインを分泌促進し、炎症を促進します。また、アルドステロンは尿中タンパク質の排泄にも関与しており、この尿中タンパクがさらに尿細管間質内で炎症を助長します。

これらをまとめると、慢性尿細管間質性腎炎はRAASと深く関連しており、ARBやACE阻害剤によってRAASを抑制することが、猫CKDの効果的な治療法であると言えます。さらに、GFRが低下する前に尿細管間質細胞の浸潤と線維化に対する治療を開始することによって、尿細管間質性腎炎の進行を制御できる可能性があります。

今回は慢性腎臓病の猫について、病態メカニズムやそれを踏まえた治療戦略を詳しく紹介してくださいました。日々の診療において、慢性腎臓病の猫を診察する機会は多いかと思いますが、今回のセミナー内容をお役立ていただけましたら幸いです。

提供:ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン株式会社
引用文献:
1:Jonathan N King, Séverine Tasker, Danielle A Gunn-Moore, Günther Strehlau. Prognostic factors in cats with chronic kidney disease. J Vet Intern Med. 2007; 21(5): 906-916.
2:Donghyun Han, Dong-Guk Lee, Dong-In Jung. Evaluation of effect over time after oral administration of telmisartan for chronic kidney disease in cats. J Biomed Transl Res 2018; 19(4): 086-091.

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