2024年1月から2月にかけて開催しましたブラベクトCat Friendly Seminar2024のサマリーレポートをシリーズでお届けいたします!
第3弾は白永伸行先生による「猫の診療現場でノミ・マダニ駆除薬を戦略的に病院経営に活かすには」についてです!
はじめに
日本ペットフード協会によると、国内における犬の飼育頭数はここ10年で200万頭減少し世帯飼育率も減少傾向にあります。猫は飼育頭数・世帯飼育率ともに横ばいであり、近年は猫の飼育頭数の方が犬の飼育頭数を上回っています。
ただ、猫は犬と比べて動物病院へ来院する頻度が少なく、病院にとっては来院件数が伸び悩む一因となっています。今回は猫の診療現場でノミ・マダニ予防薬を病院経営に活かすために、❶状況を知り❷標的を知り❸使い方を知る、この3つのテーマでお話ししたいと思います。
❶状況を知る
これまで過去に販売されてきたノミ・マダニ駆除薬の歴史を振り返ってみましょう。1980年代に初めてノミ駆除薬が発売されはじめ、首輪や経口薬などの様々なタイプのものが販売されるようになりました。その後1997年にフィプロニル製剤が登場し、当時は効能外であったマダニに対しても効果があることを実感し、その後徐々にノミだけでなくマダニの対策の重要性が注目されるようになりました。
さらにスポット剤や経口薬、チュアブルなどの投与しやすいタイプの駆除薬が発売され、3ヶ月投与やフィラリア予防薬との合剤によってさらに利便性が向上しました。
❷標的(ターゲット)を知る
開業獣医師の現場でのノミ・マダニ駆除薬に関する情報を知るために、ノミ・マダニ駆除薬の仕入れを決定できる獣医師の先生にアンケートをとりました。
ノミ・マダニ駆除薬の必要性
近年フィプロニルを毎月投与して対策を行っていてもノミが寄生しているのを見かけることがあります。よく“耐性”と言いますが、直接噴射するとノミは死滅します。つまり、耐性というよりも低感受性と呼ぶ方が適切かもしれません。ノミ・マダニの寄生そのものを防ぎたいですが、寄生虫や感染症の媒介を防ぐことも重要です。
瓜実条虫
ノミが中間宿主となる寄生虫としてメジャーなものは瓜実条虫です。瓜実条虫感染には多頭飼育・屋外へ出る飼育環境・ノミ駆除のコンプライアンスの不十分さ、これらの要因が絡んできます。多頭飼育・屋外へ出る飼育環境の場合には猫同士のキャッチボールや再感染のリスクがあり、飼い主の意識の欠如や経済的理由などからノミ駆除のコンプライアンス不足に繋がることもあります。
瓜実条虫の感染源となるノミですが、一度寄生すると、1ヶ月のノミ駆除だけではそのライフサイクルを断ち切ることは困難なため、3ヶ月は駆除薬を継続して使用する必要があります。以前は3回分の薬をまとめて処方し、3ヶ月間は駆除を継続するように指導していました。
ただ、経済的理由などからいつの間にか受付で1回分のみの処方に変更する飼い主がいたりと、なかなか3ヶ月間持続した駆虫が実現できないことも多くありました。現在では、3ヶ月間効果が持続するブラベクトを院内で投与しています。動物病院側としても院内感染は避けたいため、しっかりと対策はしてもらいたいものです。
マダニ
マダニが媒介する気を付けるべき感染症といえばSFTS(重症熱性血小板減少症候群)でしょう。2011年に中国で初めて感染が報告され、日本では2013年に山口県で初めて患者が確認されました。SFTSは動物由来の4類感染症であり、日本初の出血熱です。ヒトでの致死率は27%、死亡年齢中央値は75歳であり、50歳未満の死亡報告例はありません。
SFTSウイルスの感染経路はマダニが各種動物を吸血することで動物に伝播します。猫同士の濃厚接触や、猫や犬の伴侶動物とヒトとの濃厚接触によりヒトにも感染が成立することが分かっています。ヒトへの感染はマダニからの吸血によるものと、伴侶動物との濃厚接触によるものの経路が見つかっています。
また、ある報告によるとSFTS感染猫の1/4はマダニ駆除薬が投与されていたとのことが分かっており、マダニ媒介ではなく別の経路から感染が伝播している可能性も指摘されています。動物からヒトへ感染している症例のうち、マダニを介さずに感染している患者の30%は動物医療従事者であることが分かっています。
SFTSに感染した獣医師
SFTSに感染したのは、男性、61歳、基礎疾患があった中国地区在住の開業獣医師であり、咬傷はありませんが指にささくれがあり、SFTS猫の診療6日後に発症しました。SFTS猫の診療12日後に入院し、DIC・HPSを併発し、血小板23,000、意識障害に陥りました。
入院11日目に意識が回復しその後無事退院しました。その獣医師は、感染したのが2月であり、時期的にマダニ防除が完全ではなかったのではないかと考えました。それ以来、通年のマダニ対策を強く勧め、コンプライアンス維持のために3ヶ月効果が持続するブラベクトを推奨し、野外猫の手術は、ノミ・マダニ駆除薬を投与して2週間経過してから行っているようです。
SFTSに対する意識調査
過去に山口県における開業獣医師のSFTSに対する意識調査を行いました。
SFTS症例数から推測できること
猫とヒトにおける年間SFTS症例数を見てみると(図7)、ヒトでは横ばいである一方で、猫では増加傾向にあることが分かります。また、感染猫の致死率は63%であることから死亡している野外猫も多いと予想されるため、実際の症例数はさらに多いと考えられています。月別での症例数を見てみると(図8)、ヒトは5月がピークであるのに対し、猫では2~6月をピークに年中認められていることが分かります。このことからもマダニ対策は年中すべきでしょう。
標的を理解したうえでのまとめ
❸猫用ブラベクトの使用方法を知る
以前はマダニの発生時期が3~12月と考えられていましたが、近年は地球温暖化の影響により長くなってきているため、当院では犬においても猫においてもノミ・マダニの通年対策を推奨しています。当院で推奨しているフィラリア予防期間は5~12月上旬ですので、その期間はフィラリア予防薬とノミ・マダニ駆除薬(もしくはフィラリアとノミ・マダニ駆除薬の合剤)を投与し、残りの12月~4月までの期間はノミ・マダニ駆除薬を投与しています。
当院での昨年の猫のノミ・マダニ駆除薬の処方飼い主数を年間購入本数ごとにまとめてみたところ、1ヶ月の効果であるノミ・マダニ駆除薬では1ヶ月分のみの購入が多く、残念なことにどの駆除薬でも3本(3ヶ月分)以内の購入が大半を占めていました。ブラベクトは1本で3ヶ月分となるため、1ヶ月製剤と比較し長期でノミ・マダニ対策をする飼い主が増え、予防の簡略化・収益化に繋がりました。
ブラベクトを処方するポイント
12~4月までのフィラリア症予防薬がお休みの期間、ノミ・マダニ駆除薬を1ヶ月に1回投与するのは負担になったり忘れてしまうことも多々あります。
今回、ブラベクトの場合3ヶ月に1回の投与となり、投与頻度を減らせるため、それを盛り込んだDMを12月に飼い主に郵送しました。1,600件ほど郵送した結果、約230程度の飼い主がブラベクトを購入しました。
このようにノミ・マダニ予防は通年投与を推奨し、冬の予防は忘れがちになりやすいため、こちらからアシストすることが重要です。1ヶ月だと駆虫しきれないにもかかわらず駆虫がしっかり継続できないケースがあることや、投薬頻度を少しでも少なくすることができることを考えると、ブラベクトは利便性が高いと思います。また、ブラベクトプラス猫用はフィラリア・回虫・鉤虫にも効果があるため、マルチ駆虫薬として飼い主に勧めやすいと考えています。
まとめ
猫のノミ・マダニ対策は猫だけでなく飼い主や動物医療従事者の感染リスクを下げることをしっかりと啓蒙することが大切です。猫の市場は限局的であり、今後も頭数が劇的に増えることはあまり考えられません。地球温暖化によってマダニの活動時期が増えたことで、駆除薬の投与期間を増やすことが最善だと言えるでしょう。
また、ブラベクトによって駆除薬の投与間隔が1ヶ月毎から3ヶ月に1回へと延長できることは投薬コンプライアンスの確保と利便性、機能性を兼ね備えていると思います。
さいごに
今回はノミ・マダニ駆除薬をどのように病院の経営や収益につなげるのがよいのか、臨床現場の獣医師の様々なアンケートや実体験をもとに詳しくお話してくださいました。予防シーズンにも是非、今回のセミナーのことを取り入れてみてください。