2024年1月から2月にかけて開催しましたブラベクトCat Friendly Seminar2024のサマリーレポートをシリーズでお届けいたします!
第4弾は山本宗伸先生による「猫の来院を増やそう!山本流キャットフレンドリーの実際」についてです!
はじめに
“キャットフレンドリー”という単語はここ最近広く知られるようになってきました。日本では2012年にCat Friendly Clinicといったプログラムがスタートしましたが、これはある一定の条件を満たせばゴールド、シルバー、ブロンズの3段階に分かれて認定証が付与される仕組みです。
その頃から猫の存在感が増し、2014年に猫の団体であるJSFM(Japanese Society of Feline Medicine)が設立されました。その後2017年にJSFMがCATvocate:猫の専門従事者を育成するプログラムを開始しました。これは2年間受講することで認定資格を受け取ることができるものであり、猫のことをより深く勉強する良い機会ではないかと思います。
2023年11月時点、国内においてゴールド140病院、シルバー52病院、ブロンズ2病院と、多くの動物病院がCat Friendly Clinicの認定を受けています。Cat Friendly Clinicは3年ごとの更新が必要ですが、人のチェックが入るわけではなく書類などの提出もないため、本当にキャットフレンドリーを維持できるのかが、今後の課題となってくるでしょう。
市場の現状
犬猫の飼育頭数の変化を見てみましょう。(図1)猫の飼育頭数は若干の上向きですが、犬の飼育頭数は減少しています。近年猫ブームと言われることも多いですが、私自身は猫の飼育頭数が増えているようにはあまり感じません。昔は猫の登録自体がされていないケースも多かったのですが、近年はその登録が増えたことで飼育頭数の増加という形で現れているのではないかと考えています。ただ、犬の飼育頭数が減少していることを踏まえると、動物病院にとって今後、猫の診療がカギとなってくるのは間違いないでしょう。
猫の動物病院への来院頻度を見てみると、約半数が半年~1年に1回程度、3割が数年からそれ以上の年数に1回程度の頻度であることが分かっています(図2)。最近はワクチン接種の間隔を3年に1回を推奨している病院も出てきているため、より来院頻度が減る猫もいるかもしれません。
健康診断を受けさせている犬猫の比率を見てみると、犬では7歳未満と比較して7歳以上の方が健康診断を受けている頭数が増えるのに対し、猫では逆に7歳以上の方が定期的に健康診断を受けている頭数が減少しています(図3)。初めは健康診断を受けさせたい意思はあるが、病院に連れていくことでストレスを感じてしまったり体調を崩してしまったりという経験をし、年齢を重ねるにつれて病院へ連れて行かなくなる傾向にあるのではないかと思います。つまり、“猫の来院件数を増やす”ことは、新規の患者を獲得するわけではなく、脱落していく猫を減らすのが一番の近道と言えます。
キャットフレンドリーの課題
Cat Friendly Clinicが開始されてから13年が経ちましたが、見えてきた課題が3つあります。それは“❶ 理想と現実”、“❷ 消極的な医療に収束”、“❸ コストの増加”です。
- ❶ 理想と現実
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理想と現実とは、どれほど怒っている猫でもCat Friendly Clinic病院であれば対応できると飼い主さんが期待してしまっていることがあります。
- ❷ 消極的な医療に収束
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キャットフレンドリーに重きを置きすぎることで消極的な医療に繋がってしまうことがあります。2022年に発表されたCat Friendly Veterinary Interaction Guidelinesによると(図4)、プロテクティブな行動(=自分を守るための行動(逃げようとする、威嚇するなど))が見られた場合、その内容をカルテに記載し、処置が延期可能か考慮する、と記載されています。
これは来院時のストレスを軽減するため、キャリーや移動トレーニングや抗不安薬の投与などを飼い主さんに試してもらう、という意味です。しかし実際、飼い主さんが連れてこられた場合にプロテクティブな行動をとっていても、検査を延期するのはなかなか現実的ではないのではないかと思います。Cat Friendly Clinic病院に来られる飼い主さんの中には、血液検査はいいが超音波検査はストレスになるので実施しないで、などといった考えの方も割といらっしゃるため、そういった場合は超音波検査の必要性をしっかりインフォームドするようにしています。あまりにキャットフレンドリーすぎると診断を下すのが遅くなってしまうことがある、ということも知っておいてください。
- ❸ コストの増加
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猫専用の待合室や入院室を用意するか、という点が最もコストの増加に大きく関わってきます。動物病院が猫に配慮していると感じたことがある、と約半数の飼い主さんが回答しています。配慮していると感じた飼い主さんの約15%が、待合室や予約時間で犬猫を分けることによって配慮してもらえた、と感じたようです。この15%が大きいと感じる方はこの部分を改善するとよいですし、猫の扱いが上手、丁寧に話しかけてくれた、などといった他の部分で配慮を感じさせる工夫をしてもよいでしょう。
診療にかける時間
Cat Friendly Clinic病院では問診に費やす時間がシルバー、ブロンズでは10分以上、ゴールドでは15分以上と定められています。実際に飼い主さんが希望する診察時間はどのくらいなのかアンケートをとりました。10~15分程度が最も多く約7割を占めているため、それほど長時間の診療時間を希望しているわけではないことが分かりました。一般的な一次診療の病院で30分という診療時間を割くことはなかなか難しいと思います。その場合は専門の動物病院の診察費用を参考にしつつ特別な枠として設け、その中で費用も見直すと良いでしょう。
効果的な施策として当院が実施していること
・飼い主同伴の検査/預からない
超音波検査なども飼い主さんが傍にいるだけで、猫が大人しくしていてくれたり、帰宅後の様子の変化も少なくなったように感じます。地面にテープで飼い主さんの立ち位置を示すようにすることで、適切な距離感で撫でてもらったりおやつを与えてもらったりできるようになりました。
また、猫が動いたりすると、手や顔を抑えようとする飼い主さんがいますが、猫にとっては好ましくない行動であるため、事前に防ぐためにエリザベスカラーの縁を軽く持ってもらい、飼い主の方を向かせるように指示しています。そうすることで猫を強く拘束することは減り、猫もエリザベスカラ―と飼い主さんしか見えないため、手を出しにくくなります。また、猫を叱ったり動き回ったりする飼い主さんは減っていますが、あまりにもそういった行動が気になる場合は一旦退出をお願いすることもあります。
・痛みではなく刺激
スプレーや紙テープを巻くときなど、痛みではない刺激が怒りのトリガーとなる場面も多いため、採血や超音波検査などを行う際はなるべく刺激が少なくなるようにしています。シリンジでの採血の場合、どうしても針先が動いて刺激になってしまうことがあるため、翼状針で採血を行うことも一つの方法です。
また、シリンジを引くときもゆっくり一定の速度で行う方が刺激は少ないです。保定を行う看護師の駆血も基本的にはじっと動かさないようにお願いしています。
レントゲン室ではカセッテを正面から持って行かない、ライトが消えてから撮影する、防護服のマジックテープの音に注意する、などが刺激を減らす方法として挙げられます。
・ハンドリングスコアの記録
カルテにハンドリングスコアを記載しておきます(図5)。これによって他の獣医師や看護師が診察を行うときに、同じ失敗を繰り返さないで済みます。獣医師の先生方へのアンケートで、来院する猫の割合を回答してもらったものです(図6)。キャットフレンドリー施策を是非実践していただき、その前後で、どのくらい扱いが難しい猫の割合が変化するのかを見ても面白いと思います。
・待ち時間削減
当院は予約制を導入し、なるべく待ち時間を削減するようにしていますが、それでも予約時間通りに案内できないこともあります。待ち時間が長いほど、採血などの検査・処置に手間取ってしまう傾向にある気がするため、キャットフレンドリーという面からも予約時間は気にするようにしています。他にも診察の順番がくるまで車で待機してもらう、などの方法もいいかもしれません。
さらなるキャットフレンドリーを実現するために
・ストレスとなるものの頻度を減らす
最近のキャットフレンドリーのトレンドとして、投薬頻度を減らす、来院頻度を減らす、という点が注目されています。てんかん発作に対する治療薬であるフェノバールは1日2回投与する薬剤ですが、これを1日1回の投与へ変更した場合でもてんかん発作をコントロールすることができたという報告があります。
また、近年発売された猫用エリスロポエチンを用いることで2週に1回の投与と、これまでのエリスロポエチン製剤と比べて来院頻度を減らすことができます。さらに、ブラベクトは3ヶ月持続型の薬剤であり、これまでのノミ・マダニ予防製剤が1ヶ月毎の投薬であることを考えると、キャットフレンドリーに適していると言えるでしょう。
実際の飼い主さんへのアンケート結果では、約半数の方が3ヶ月持続型のノミ・マダニ駆除薬を要望している事が分かりました。1ヶ月毎の駆除薬を希望している方は、投薬月が毎月ある方が覚えやすいなどが推測されます。
・飼い主さんとの接し方を考える
猫が好きな方の性格はどのようなイメージですか?細かい、心配性・・・など、犬の飼い主さんと比べてコミュニケーションが取りづらいと感じるイメージがあるかもしれません。今回、266名の獣医師の先生へのアンケートで、犬と猫、それぞれの飼い主さんに対するコミュニケーションスコアを評価してもらったところ、犬と猫の飼い主さんに対してそれぞれ同じスコアをつけた獣医師は77名でした。異なるスコアをつけた189名の獣医師の回答もそれほど犬と猫の飼い主さんで大きな差異はなさそうな結果が得られました(図6、図7)。
つまり猫の飼い主さんだからといってコミュニケーションをとるのが難しいわけではないことが分かりました。猫の診察だからと身構えずに、先入観を持たずに診察を行うことが大切です。
とはいえ、診療業務を行ううえで、やはり猫好きの飼い主さんの心を掴むことができるのは、特性が近い人ではないでしょうか。猫好きの獣医師や看護師といった、猫の専用従事者を院内で決めておくと良いでしょう。
当院の寄生虫対策・定期検診
子猫のうちから寄生虫対策を習慣づけておくのは非常に重要です。子猫のころからしっかり対策をしている方やペットホテルを利用する方は寄生虫対策を継続できている方が多いです。
また、私は腎臓病や甲状腺疾患、糖尿病などといった慢性疾患の定期検診を3ヶ月毎に行うことが多いです。その際に飼い主さんには、成猫の1年は人間での4歳と同じ、つまり猫での3ヶ月毎の検診は人での1年毎の検診と同じ頻度、とよく話します。ブラベクトの投与も3ヶ月毎ですので、院内での投与を提案しつつ、同時に体重測定や身体検査を含めた健康診断を推奨しています。
まとめ
これまでの話で最も実践しやすいキャットフレンドリー施策は、待たせない、飼い主同伴、刺激を意識、この3つだと思います。キャットフレンドリー項目はたくさんありますが、その中でもまずはこの3つを意識してみてください。飼い主さんの心情に対しては、猫好きの獣医師・看護師が担当することをおすすめします。
さいごに
今回は主に1次診療現場での、猫に対する考え方・診療に関するコツをお話しくださいました。明日の診療からすぐに実践できるものもありましたので、是非試してキャットフレンドリーな動物病院をめざしてみてください。