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【サマリーレポート】健康診断は「勧める」と「減る」!?飼い主さんが受けたくなる伝え方の秘密(伊藤優真先生)

サマリーレポート
祐天寺どうぶつ医療センター
帝京大学大学院公衆衛生学研究科 客員研究員

今回、ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン株式会社主催で開催した伊藤優真先生のセミナーの内容をまとめました!
獣医療において、健康診断は病気の早期発見につながる重要な機会です。一方で、特に猫では受診率が低く、病院からの勧め方によっては飼い主様の拒否感につながってしまうこともあります。本セミナーでは伊藤先生に、飼い主様が“自発的に受けさせたくなる”コミュニケーションの秘訣を解説いただきました。

健康診断は「双方良し」

健康診断は、飼い主様・動物、動物病院すべてにとってメリットがある“双方良し”だと言えます。(図1)

私たちを取り巻く環境下では、AIやセルフレジなどの技術革新が進み、近年とても便利な世の中になってきています。動物病院業界でもオンライン診療の導入で利便性が向上し、AIによる鑑別疾患や標準治療法の提案など、頭脳の一端も担えるようになってきています。その一方で、AIには飼い主様と喜びや悲しみを分かち合うといった心の役割を果たすことはできません。それゆえに“心を感じるコミュニケーション”がより重要になっています。(図2)
コミュニケーションは、天性の才能ではなく、意識して学び実践することにより誰でも上達します。動物病院における“コミュニケーションが上手な人”とは、決してお笑い芸人のような人ではなく、相手に合わせて対応を変えることが出来、飼い主様の悩みに寄り添い手を差し伸べることができる人を指します。

健康診断を増やすための2つの壁

一方で、勧めすぎると飼い主様から営利的に思われる、過剰診断・過剰治療に陥る可能性がある、という点には注意が必要です。単に獣医学的知識を伝えることではなく、ここからお話するような、“獣医師としての専門知識”と“飼い主様の心理”の橋渡しができるようなコミュニケーションへとつなげていきましょう。
また、犬と比べて猫の健康診断受診率は低く、年に一度も健康診断を受けていない猫が半数以上という病院が9割にのぼります。(図3)

猫の健康診断が断られやすい理由には、猫のストレスへの懸念や健康診断の必要性を飼い主様が十分に理解していない、費用負担や病気が見つかるのが怖い、などが挙げられています。

健康診断を増やすには、“来院を増やすこと”と“健康診断を増やすこと”の2つをクリアする必要があります。今回はコミュニケーションに焦点を当てているため、既に来院している猫の“健康診断を増やす”ことに特化して説明します。

コミュニケーションの罠:魔性の言葉
私自身の失敗談として、早期発見早期治療の重要性を熱心に伝えすぎた結果、飼い主様から「営業のようで嫌だった」と言われたことがあります。このように良かれと思って行っている説明が、なぜ飼い主様に響かないのか。「健康診断をしましょう」「ワクチンを打ちましょう」といった、一見前向きな「~しましょう」という勧誘の言葉は、実は“魔性の言葉”になりえるので注意が必要です。相手がまだ興味を持っていない段階でこの言葉を使うと、飼い主様は面倒くさい、押し付けられているという拒絶反応(心理的負担)を抱いてしまいます。アンケートでも、“丁寧に説明しているのに健康診断の受診率が上がらない”という悩みが多くの獣医師から寄せられています。(図4)

これは、まさに“魔性の言葉”によって飼い主様の心理的負担に配慮しない説明になっている可能性や、健康診断の最適な案内方法がわからないなど、飼い主様とのコミュニケーションで悩んでいる獣医師が多いことを示唆しています。健康診断を受けてほしいというゴールが決まっているからこそ、“何を提案するか”という結論以上に、そこに至るまでに“どのような話し方をしていくか”というプロセス自体が、健康診断の受診率を左右する極めて重要な要素となります。

テーマ①:どうしたら健康診断を自ら受けさせたくなるか?

健康診断を増やすための軸を“どう勧めるか”から、“どうすれば飼い主様が自ら受けさせたくなるか”に変える必要があり、飼い主様目線でコミュニケーションをとるようにしてください。コミュニケーションとは、“何かを伝えること”ではなく、それを通じて“何かが共有されるプロセスおよび結果”であり、相手に“伝わること”が重要です。飼い主様の行動が変わる、伝え方の秘密についてお話しします。

①具体的に伝える
抽象的な言葉は響きません。具体的な数字や、持ち帰り可能なパンフレット(自宅で家族への説明に役立つ)を活用します。また、人間なら何歳、お相撲さんくらい太っているなど、相手がイメージしやすい言葉や例え話を使います。(図5)
②情報量をしぼる(量より質)
いくら時間を取って説明しても伝わってなければ意味がありません。中学生でも理解できる内容で、専門用語を避け、メリットを簡潔に伝えます。(図6)
“知の呪縛”という思い込み
知識を持つ人は、知識を持たない人の状態を想像できなくなります1)。獣医師側は“正しい知識(メリット・デメリット)を伝えれば、相手は正しく判断して健康診断を受けてくれるはずだ”という思い込み(知の呪縛)に陥りがちですが、人間は必ずしも論理だけで動くわけではありません。
この“知の呪縛”を意識していなければ、飼い主様に正確な情報を伝えることだけに意識が向いてキャパオーバーになったり、自分でも気づかないうちに専門用語を使ってしまうことが起こり得ます。獣医師に「何か質問はありますか?」と言われても、飼い主様は分からないのに聞けない、もはや何が分っていないのかが分からないことも多々あります。相手に伝わっているかまでを、よく考えてみてください。
1)Birch SAJ, Bloom P. The curse of knowledge in reasoning about false beliefs. Psychological Science. 2007;18(5):382–386.

テーマ②:飼い主様はあなたの話に興味がない

獣医師がどれほど熱心に獣医学的メリットを説いても、根本的な前提として“飼い主様は、私たちの話にはあまり興味がない”という事実を認識する必要があります。飼い主様が関心を持つのは、あくまで自分自身や自分の動物に直接関係があることだけです。人は論理だけで動くほど合理的な生き物ではありません。行動を変容させるには、理性だけではなく感情にも働きかける必要があります。

①“驚き”で興味を喚起する
まずは驚きを与えて、会話の“フック(引っ掛かり)”を作ることが重要です。“猫の病気は元気そうなまま進むことが多い”“もう人間なら60歳”といった、相手が「えっ?」と身を乗り出すような、常識や想定とは違う予想外の情報を伝えることで興味を喚起します。また、私たちはグラフや数字を並べがちですが、一般の飼い主様には伝わりにくいものです。複雑な資料よりも、“3倍に増えています”といったインパクトのある数字を強調し、具体的な話をすることが行動変容につながります。(図7)
②ストーリーとファクトの共有
具体的な症例や他の飼い主様の体験談を共有することで、より自分ごととして捉えてもらい、感情を動かします。“早期発見できて今も元気に暮らしている”というストーリーで感情を動かした直後に、具体的な数字や資料などで客観的な根拠のファクトを提示します。これにより、心と頭の両方に働きかけることができ、説得力が増します。(図8)

まとめ

健康診断の受診率を上げるカギは、動物病院目線の押し付けをやめ、飼い主様が自発的に受けさせたくなるように感情と理性の両面に働きかけることです。
相手の目線に立ち、中学生にも伝わる言葉で、驚きやストーリー&ファクトを交えたコミュニケーションを意識することが重要です。

本講演では、“どうすれば自ら健康診断を受けさせたくなるか”という飼い主様目線を持つこと、感情を動かすコミュニケーションを実践することが、受診率向上につながることを、具体的な例を交えて分かりやすくお話しいただきました。明日からの診療でぜひご活用いただければ幸いです。

提供:ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン株式会社

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