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【サマリーレポート】「医療コミュニケーション」から考える糖尿病治療がもっとうまくいく方法(伊藤優真先生)

サマリーレポート
有明動物病院
帝京大学大学院公衆衛生学研究科 客員研究員

今回、2025年10月にベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン株式会社主催で開催した伊藤優真先生のセミナーの内容をまとめました!
伊藤先生には動物病院の現場で直面する糖尿病診療において、特に飼い主様とのコミュニケーションや治療の継続性に焦点を当てたお話をしていただきました。

糖尿病治療における医療コミュニケーション

糖尿病は生涯にわたる治療が必要なため、飼い主様にとって負担の大きい病気のひとつです。獣医師を対象とした調査では、約40%の獣医師が糖尿病に罹患した猫の飼い主様に治療を断られた経験があり、その主な理由として費用や注射への恐怖などが挙げられています 。(図)

糖尿病を診断して定期的に検査を行い、その結果に基づいて薬の量を調整することは獣医師の業務ですが、それだけでは不十分だと考えています。飼い主様が抱える心の問題(悩みや不安)に寄り添うことが、AIにはできない、今後の動物病院で重要となってくる要素です。

糖尿病の治療を成功させる上で、医療コミュニケーションの技術は必須です。コミュニケーションは才能よりも技術の要素が非常に大きく、練習を重ねることで誰でも上達することが可能です。「どう話せばより良い診療につながるのか」 を捉え直し、習得することで、診療の技術が上がり、今まで以上の力を発揮できるようになります。
現在重要視されているのは 「コンプライアンス(指示通りに薬を与えること)」 よりも 「アドヒアランス」 です。アドヒアランスとは、飼い主様自身が 「この治療は重要だ」 と理解し、積極的に治療を望んでいる状態を指します。アドヒアランスが低いと、治療がうまくいかず、悪循環的に不安感や不信感につながる可能性があります。人の研究においても、糖尿病患者とのコミュニケーションが良好であるほど、血糖値の自己管理能力や治療への満足度、アドヒアランスが高まることが示されています。

治療方法の決定

糖尿病治療を進める上での大きな要素の一つが “治療方法を決定すること” です。下記に示すようなインフォームドコンセント (IC) の取り方では、飼い主様が本当に希望する治療方法を選べないことがあります。(図)

①SDM (共有意思決定) の導入
治療を決定する上での大きな要素の一つがSDM(Shared Decision Making : 共有意思決定)です。SDMとは、最善の治療方法が不明確で、かつ複数の治療選択肢がある場面で必要とされる考え方であり、その飼い主様にとって 最善の治療を見つける意思決定プロセスです。(図)SDMでは、最善のエビデンス(医療情報)と飼い主様の価値観、好み、背景などを統合し、獣医師と飼い主様が協力して治療方法を決定していきます。SDMは、獣医師が 一方的に決める「パターナリズム」や、情報提供後に飼い主様に決断を委ねる「インフォームドコンセント」とは異なり、双方向的なプロセスです。
②SDMが必要な場面
糖尿病治療では、低血糖、インスリン注射、治療費、動物のQOL、飼い主様のライフスタイルの変更など、飼い主様が懸念する要素がいくつもあります。(図)コントロール不良がDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)という命に関わるリスクにもつながる可能性があるため、このような場面ではSDMを活用して両者が納得・満足するような治療方針を決定していきます。
③SDM実践のためのコミュニケーション技術
SDMを効果的に行うためには、飼い主様の考えを深く探る必要があります。
Point①解放型質問
「どんなことが気になりますか?」「話を聞いてどう思いましたか?」などの解放型質問(オープンクエスチョン)を使用し、飼い主様が自由に考えていることを話せる環境を作ります。
Point②当事者意識
最適な治療方法は飼い主様と動物ごとに 変わることを伝え、「一緒に相談して決めましょう」という姿勢を示すことで、飼い主様の当事者意識を引き出します。

治療継続のためのコミュニケーション

糖尿病治療におけるもう一つの重要な要素は “治療を継続すること” であり、飼い主様がモチベーションを保てるようなコミュニケーションが求められます。

①共感とリスペクトの姿勢
飼い主様が「注射が大変で自信がない」といった悩みを打ち明けた際、獣医師は動物病院目線だけでなく、飼い主様目線で物事を考えることが重要です。生涯にわたり治療を続ける飼い主様の気持ちに共感する姿勢が求められます。
②服薬の確認
飼い主様は、獣医師に対して治療薬をきちんと投与できていない事実を伝えにくいことがあるため、率直に話せる環境づくりが必要です。心理的な逃げ道を用意して質問することが有効です。
ついつい言いがちな飼い主様のモチベーションを下げる余計な一言(ロードブロック)として、一方的な助言や批判が挙げられます。特に、飼い主様の考えや認識が間違っていると感じた場合でも、すぐにそれを正そうとする間違い指摘反射は避けましょう。(図)
③服薬指導
指示や提案を伝える際は、飼い主様が主語となる “You メッセージ” (例:この薬をあげてください) ではなく、自分が主語となる “I メッセージ” (例:薬をあげてもらえると嬉しいです) を使うと、相手に思いが伝わりやすく、反発を招きにくい傾向があります。
“I メッセージ” は、獣医師としての客観的な立場で情報を伝えるだけではなく、一人の人間として、個人として、「私」が「あなた」に対して期待し、心配していることを伝えることができ、飼い主様との信頼関係の構築にもつながります。(図)

「○○ちゃんの経過がどうなっていたかなと心配していました」 「数値が良くなっていて、私も嬉しいです」 と伝えることで、飼い主様は自分と動物が一人の大切な存在として認識されていると実感し、満足度が向上します。

まとめ

糖尿病治療には医療コミュニケーションの知識が必須であり、医療知識と合わせることで治療がもっとうまくいくようになります。
SDMを意識した意思決定を行い、その飼い主様と動物にとって最も良い治療方法を選ぶことが、アドヒアランス向上につながります。
獣医師の皆様ご自身のコミュニケーションを振り返り、Iメッセージや解放型質問など、具体的なテクニックを 意識的に実践することが重要です。

今回は糖尿病治療をめぐる臨床現場の工夫や、飼い主様との対話を通じて信頼関係を築くための考え方・姿勢について、具体的な事例とともにご紹介いただきました。
日々の診療のヒントとして、明日からの現場でぜひご活用いただければ幸いです。

提供:ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン株式会社

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