ベトメディン経口液使用症例報告
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症例
トイプードル(避妊メス)13歳 体重2.4 kg BCS: 4/9 MCS: 軽度の低下
病歴
約2年前にうっ血性右心不全(乳び胸水・腹水貯留)の精査を目的に当院を受診し、僧帽弁閉鎖不全症と肺高血圧症を診断した。
フロセミドおよびベトメディンの内服による心不全治療を開始し、心不全から離脱した状態を保っていた。
また、経過の中で慢性腎臓病が顕在化し、悪化に従い利尿薬の内服は漸減・休薬としていた。
ただし、左房、左室ともに拡大は依然顕著であり、右心不全のみならず左心不全発症(肺水腫)のリスクも十分にある難しい状況であった。治療
心負荷および腎数値の程度に大きな変化はなく、心不全コントロールは比較的良好にできていたが、歯周病が徐々に悪化し食欲の低下が認められていた。
もとより少量のフードと一緒であれば錠剤を食べてくれていたのだが、食欲低下とともに投薬が困難になってきた。そこでベトメディンを錠剤から経口液へと変更を行なった。経過
経口液に変更したことで投薬は容易になり、心不全を発症させることなく全身麻酔下での歯科処置を行うことができた。
処置後に食欲は回復し、内服も経口液から錠剤に戻すことが可能であった。幸運なことに麻酔後に心不全を発症することもなく、腎数値の悪化もほとんどなかった。考察
フードや投薬補助トリーツを用いれば投薬が容易であるが、食欲の喪失とともに薬剤の投与が難しくなる動物も少なくない。
心不全期もしくは心不全リスクが高い状況では循環器薬、特にベトメディンや利尿薬などの心不全治療の主軸になる薬剤を数日投与できないことが肺水腫発症の引き金になってしまうこともある。
本症例では経口液に切り替えることで食欲低下時においても投薬を継続することが可能になった。進行した心疾患を持つ動物において、循環器薬を欠かさず内服させることは時に容易ではない。
錠剤、経口液、静脈投与など投与経路を複数有する循環器薬の登場は我々獣医師にとっても大きな助けになっている。
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症例
チワワ、去勢雄、9歳、2.5 kg
病歴
3年程前に粘液腫様変性僧帽弁疾患と診断されるが心拡大を認めず無治療で経過観察としていた。
しかしながら2年前の再検査にてstage B2への進行が確認されたためベトメディンチュアブルの内服を開始。
その後しばらく無徴候で良好に経過していたが半年前に肺水腫を発症。
入院治療により回復し、以降はベトメディンに加えて利尿薬の内服を続けていたが1ヶ月前に再び肺水腫を発症。僧帽弁形成術を希望して来院された。治療
僧帽弁形成術を実施し、逆流は消失した。僧帽弁形成術後の強心剤の必要性は明確に証明されたものではないが、本院を含めて多くの施設において少なくとも周術期には使用される事が多いと考える。
本症例は手術翌日には心サイズの縮小も認められたが食欲はまだ不十分であったため内服はやや困難であり、ベトメディン経口液を選択した。経過
2日間はシリンジにて直接経口投与を行ったが、嫌がる事無く正確な量を投与することが可能であった。
その後は食欲も正常に復したためチュアブルに切り替え、術後1ヶ月間継続した後に投薬終了とした。考察
本症例は僧帽弁形成術後という特殊な状況下であるが、それ以外の様々な手術後、あるいは内科疾患での入院治療中などでも、ピモベンダンが必要となる状況は少なくないと考える。
液剤はそのような状況下で、お互いに負担が少なく、確実に投与するための有望な選択肢として、広く活用できるのではないかと考えられる。
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症例
マルチーズ 14歳 体重3.0 kg BCS: 2/9 MCS: 中等度の低下
病歴
12歳時に子宮蓄膿症と僧帽弁閉鎖不全症(B2)と診断した。
子宮蓄膿症手術当日からベトメディンチュアブルを投与し、術後はさらにアムロジピンとアラセプリルを追加した。治療
術後半年で、左房拡張の進行により、トラセミドも開始した。食欲旺盛なタイプではなかったが、13歳半からは腎数値の悪化も加担し、体重減少した。
心臓変化を観察しながら薬剤を順次減薬、休薬していき、最終的にベトメディンチュアブル単独とした。
しかし、ベトメディンチュアブルも飲ませられなくなり、ベトメディン経口液へと変更した。経過
経口薬で投薬が容易になり、心拡大、腎不全の悪化を抑えつつ、投薬ストレスによる体重減少も止まり、現在良好に経過中。
考察
小型犬は食ムラがあり、普段の食事に苦渋する例がある。本例も、加齢と心不全治療による腎機能低下が、体重減少に加担した。心臓と腎数値を観察しつつ、錠剤量を漸減、中止したが、ベトメディンだけは継続させたかった。
しかし、最も大切なのに、サイズから最も投与困難なのもベトメディンチュアブルであった。
だが、経口液の食前投与は簡単であり、『フードのどこかに錠剤が混ざっている?』という犬の疑念が解消し、食前投与が美味しい食事前の儀式となり、安心して食事ができ、体重減少も解消した。
しかも、食前投与が薬効も改善し、良い事づくめになった。良かれとの治療が、動物のQOLを下げ、逆に寿命を短くする事はまれにある。本例もその類であったが、ベトメディン経口液により、負のスパイラルが断ち切られた良い例となった。
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症例
シーズー(去勢雄)14歳5ヶ月 体重9.5 kg
病歴
2022年7月に来院。その 1 カ月前からは発咳ならびに運動不耐性が認められた。
聴診にて、左側心尖部領域よりLevineIII/VIの収縮期雑音を聴取。各種検査にてステージB2(ANP 474.5)と診断。治療
ピモベンダン(ベトメディンⓇ以外の製品)にて治療を開始した。
高齢の場合は比較的進行しないケースもあるが、本症例も約3年間維持できていた。経過
2025年5月、左上顎歯茎から出血があり、その痛みから投薬できなくなったとのこと。抗菌薬と止血剤を処方した。
2025年6月、口の痛みから食欲がなく投薬もできない(心不全治療薬も)といった主訴で再診。来院時には湿性発咳が認められ、肺水腫(ステージC)と診断。
ベトメディンⓇ経口液による治療を開始し、現在は安定している。考察
本症例は小さい時から飼い主様や我々に咬むこともあり、以前から投薬は苦労していた。食欲がある時の投薬は簡単であったが、食欲不振時の投薬は不可能であった。
これまでピモベンダンをなんとか3年間投薬していたが、高齢犬のため歯周病から錠剤をのめなくなり、肺水腫を発症した。
入院治療にて肺水腫離脱後、院内でベトメディン経口液を投薬してみるとやや投薬に苦労はしたが、退院後も利尿剤とともに投薬継続可能ととなり、液剤になってから理想的な空腹時に投薬可能となった。
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症例
チワワ(避妊メス) 16歳7カ月 体重2.0kg。
BCS 3/9病歴
歯周病、僧帽弁閉鎖不全症(ACVIM Stage C)。
3カ月前に急性肺水腫を発症。ベトメディンチュアブル、フロセミド内服にて維持していた。治療
投薬開始当初は確実な内服ができていたが、腎数値の悪化、持病の歯周病の影響もあり、投薬不備が生じるようになっていた。
フロセミドは粉にすると内服できていたが、ベトメディンチュアブルの内服が難しい状況であったため、ベトメディン経口液を選択した。経過
ベトメディン経口液の投薬開始より、確実な投薬が可能となり、食欲の低下も改善した。一般状態も安定しており、心不全増悪による再入院も回避できている。
考察
投薬ストレスから解放されたことにより、オーナー、患犬、共に満足が得られた事例であった。
本症例のように、食欲が低下しており、かつ歯周病のある犬は、錠剤を口腔内に強制投与することが難しい。ベトメディン経口液は無味無臭で、口腔粘膜の刺激もないため、投薬不備が生じる症例の救済手法となる可能性が示唆された。