VETS CASE REPORT第14弾は前回に続き、日本獣医生命科学大学の森昭博先生にご執筆いただきました!
はじめに
プロジンク®は日本において犬、猫用に認可された唯一の動物用インスリン製剤である。猫においては作用の持続時間が10-14時間あると考えられている(Small Animal Internal Medicine. 5th ed)。
今回フリースタイルリブレ® を装着し、プロジンク®で血糖コントロールを行った猫の症例について解説する。
※フリースタイルリブレはヒト用に開発された持続型血糖モニタリング装置(医療機器)であり、動物での有効性及び安全性は確認されていません。
症例概要
食事は7:30と19:00に与えられ、インスリンは食直後(おおよそ7:35および19:05)に投与した。インスリンの投与量は0.5単位/head/BID皮下投与とし、約0.1単位/kg/BIDで投与した。
※一部時間帯でデータが記録されていないのは、スキャンの前8時間までしかセンサーに血糖値が記録されていないためである。
治療後の経過
プロジンク®投与開始1日目~3日目
3日間ともにほぼ同じ血糖コントロールを推移している。また日中も夜間も血糖変動があまり変わらないことがわかる。
血糖値は7:00に約150mg/dl付近から始まり、おおよそ11:00(インスリン投与後3.5時間)で最低血糖値(約50mg /dl)になっている。
その後徐々に血糖値は上昇し、インスリン投与後11-12時間で150-200mg/dlまで血糖値が上昇している。夜間は日中よりも血糖値の低下がマイルドなようである。
プロジンク®投与開始4日目~5日目
4-5日目の血糖値変動は、ほぼ1-3日目と変わらないことがわかる。
4日目の日中の最低血糖値はやはり50mg/dl前後であり、9:00-13:00(インスリン投与後1.5-5.5時間)まで継続して血糖値が低くなっている。
5日目では血糖値の低下がマイルドであり、理想的な血糖変動を示している。
獣医保健看護学科
獣医保健看護学臨床部門 准教授
この症例はインスリン投与量がわずか0.5単位/頭/BIDと少量であり、自己インスリン分泌がある程度保たれていると考えられる。このような場合、不足しているインスリン量を注射にて補充し、良好な血糖コントロールを保つことができる。今回の症例でもプロジンク®の投与により、うまくコントロールすることができた。
この症例ではプロジンク®の血糖最低時間は添付文書や既存の報告と同様に投与後3-5時間程度と考えられた。このように最低血糖値の時間がわかる場合は飼い主にその時間を伝えておき、低血糖が発現しやすい時間帯であることを伝えておくとよい。
また夜間においては血糖値の低下が日中よりもマイルドであった。この症例は日中あまり動かないものの、15㎡ほどの部屋を自由に移動できるようになっている。夜間はケージの中に入り、寝ていることが多いため、自発的な運動が日中よりも少ないことが考えられる。そのため、夜間の運動の低下から皮下から投与したインスリンの吸収が遅くなり、血糖値の低下が緩やかであったと考えられる。
フリースタイルリブレを用いて日中および夜間の血糖変動を記録することにより、症例の血糖変動の特徴や、日中と夜間の違いなど様々なことがわかった。
プロジンク®の効果を判定するためにも、24時間の血糖変動を把握することは推奨できる。
症例報告提供:ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン株式会社