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センベルゴ特別インタビュー「臨床獣医師が見る可能性と実践的アプローチ」(佐藤雅彦先生×福島建次郎先生)

VETS INTERVIEW

センベルゴ特別インタビュー

2024年9月、猫の糖尿病治療薬としてSGLT2阻害薬「センベルゴ®15mg/mL」(ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン株式会社)が発売され、約1年が経過しようとしています。
インスリン注射以外の新たな選択肢として注目を集める本剤について、臨床現場ではどのように受け止められ、活用されているのでしょうか。

今回は、どうぶつの総合病院 専門医療 & 救急センターにて、日常的に糖尿病の猫の診療に携わっておられる佐藤雅彦先生、福島 建次郎先生のお二人に、センベルゴ発売前の印象から実際の使用感、今後の展望まで、幅広くお話を伺いました。

インタビュー
どうぶつの総合病院 専門医療 & 救急センター 内科主任
どうぶつの総合病院 専門医療 & 救急センター 内科主任
臨床現場でのセンベルゴ ―実際の使用感と症例選択

司会:臨床現場では、どのような症例にセンベルゴを使用されることが多いですか?

佐藤先生
当院に来院される糖尿病の猫は、一般 状態が比較的良好、合併症もないといった症例は、正直なところそれほど多くありません。
どちらかというと、既に他の病院でインスリン治療を受けていて、コントロールが難しい、あるいは副作用で 悩んでいるなどの理由でセカンドオピニオンを求めて来られるケースや、重度のケトアシドーシス(DKA)で緊急的に入院してくるような症例が多いのが現状です。
そのため、初診の糖尿病猫にセンベルゴを第一選択薬として使用するケースは、それほど多くはありません。そういった意味では一次診療の先生方の方がセンベルゴに適した症例を見つける機会がもっと多いのではないかと思います。
なお、当院では既存のインスリン治療からの切り替えや、DKAの治療後に状態が安定した猫に対して、インスリン以外の選択肢として提案する、といった使い方が中心になっています。
実際に使用した印象としては、センベルゴだけで血糖値が非常に良好にコントロールできる猫もいれば、残念ながらケトン体が増加してしまい、使用を中止せざるを得なかった猫もいます。個体差が大きい薬剤であるという印象はありますね。

司会:インスリン治療からの切り替えとして投薬するとのことですが、センベルゴを第一選択薬として使用することに関しては、どのようにお考えでしょうか?

佐藤先生
現時点では、全ての糖尿病猫に対して センベルゴを第一選択薬として推奨する、ということには慎重です。
やはり、インスリンとセンベルゴ、それぞれにメリットとデメリットがあります。
例えば、インスリンは確実な血糖降下作用が期待できますが、注射の手間や低血糖のリスクがあります。
一方、センベルゴは経口投与で手間は少ないですが、効果には個体差があり、DKAのリスクも考慮しなければなりません。
ですから、飼い主様と十分に話し合い、それぞれの薬剤の特性、猫の状態、飼い主様のライフスタイルや治療に対するご希望などを総合的に判断して、最適な治療法を選択していくというスタンスです。
福島先生
私も佐藤先生と全く同意見です。センベルゴが登場したことで、猫の糖尿病治療における選択肢が一つ増えた、ということが非常に大きな進歩だと感じています。
やはり、その猫の病態、特にインスリン分泌能がどの程度残存しているのか、インスリン抵抗性の程度はどうか、といった点を評価することが重要です。
膵β細胞の機能がある程度保たれていると考えられる症例では、早期に導入することで良好なコントロールを得られる可能性があるでしょう。
また、飼い主様が治療に何を求めているのか、例えば、多少手間がかかっても厳密な血糖コントロールを目指したいのか、あるいは、できるだけ投薬の負担を減らしたいのか、といった意向も考慮に入れる必要があります。
センベルゴはインスリン注射に抵抗があったり、頻回の注射が難しい飼い主様にとっては、非常に魅力的な選択肢となります。

司会:糖尿病の猫ちゃんが来院された際に、飼い主様に治療法を提案する上で、センベルゴはどのような変化をもたらしましたか?

佐藤先生
提案の幅が広がった、というのが一番大きな変化です。以前は、基本的にはインスリン治療が中心で、その用法・用量をどう調整していくか、という話になりがちでした。
しかし、センベルゴという選択肢が増えたことで、「インスリン注射による治療法と、経口薬による治療法がありますが、それぞれにこういった特徴があります」という形で、より飼い主様のニーズに合わせた提案ができるようになりました。
これは、飼い主様にとっても、我々獣医師にとっても、非常にポジティブな変化だと感じています。
福島先生
特に、「注射は絶対に無理」とおっしゃる飼い主様に対して、以前は治療の選択肢が非常に限られていましたが、センベルゴの登場によって、そういったケースでも積極的に治療を提案できるようになったのは大きいですね。
結果として、治療を諦めてしまう猫を減らすことに繋がるのではないかと期待しています。

センベルゴの適応を考える ―適切な症例選択のポイントと注意点

司会:実際にセンベルゴをまだご使用になられていない先生方からは、「適切な症例がいない」「どのような症例に使えばよいか分からない」といったお声も伺います。
先生方は、センベルゴを使用する際の症例選択において、特にどのような点に注意されていますか?また、飼い主様にはどのようなご説明をされていますか?

福島先生
まず基本的なこととして、日本で承認されているセンベルゴの添付文書や、「猫の糖尿病治療ガイド」に記載されている適応基準を遵守することが大前提です。
具体的には、一般状態が良好で、食欲があり、嘔吐や下痢といった消化器症状がなく、かつケトン体が陰性である、いわゆる「ハッピーな糖尿病」な猫が対象となります。

さらに、膵炎や慢性腎臓病(CKD)、甲状腺機能亢進症といった併発疾患がある場合は、慎重な判断が必要です。
これらの疾患は、糖尿病のコントロールを難しくするだけでなく、センベルゴの副作用リスクを高める可能性も否定できません。
最近、海外の専門医の間で議論されている点として、センベルゴの臨床試験において、ベキサグリフロジン(アメリカで承認されているSGLT2阻害薬)の研究と比較して、DKAの発生率が若干高いのではないか、という指摘があります。
その要因の一つとして、ベースラインでの膵炎のスクリーニングが十分でなかった可能性が挙げられています。ベキサグリフロジンの研究では、猫膵特異的リパーゼ(Spec fPLI)を測定し、膵炎が疑われる症例を除外しています。
ですから、特に潜在的な膵炎のリスクを考慮し、必要であればSpec fPLIなどの検査を実施して、慎重に症例を選択することが重要だと考えています。

佐藤先生
福島先生がおっしゃる通り、まずは治療ガイドを遵守することが基本です。食欲と元気が安定しており、多飲多尿などといった臨床症状は認められるものの、ケトン体は産生されていない、という症例に対しての使用が推奨されています。
併発疾患のスクリーニングも非常に重要です。ただし、スクリーニング検査を実施することが、費用面などの点から難しい場合もあるのが現実です。
そのような場合でも、最低限、一般状態が安定しており、明らかな消化器症状や脱水がなく、尿検査でケトン体が陰性であることは、必ず確認するようにしています。

飼い主様への説明としては、センベルゴはインスリンとは異なる作用機序で血糖値をコントロールする薬剤であること、経口投与で利便性が高い反面、効果には個体差があること、そして注意すべき副作用としてDKAがあることを、お伝えするようにしています。
特に、DKAの初期症状(食欲不振、元気消失、嘔吐など)については具体的に説明し、少しでも異変を感じたら連絡していただくようにしています。

司会:「痩せている症例には絶対に使えないのではないか」というイメージをお持ちの先生もいらっしゃるようですが、体重減少が見られる猫への使用についてはどのようにお考えですか?

佐藤先生
「痩せている」という状態を一概に悪液質と判断することはできません。単に糖尿病による代謝異常で体重が減少しているのか、それとも背景に重篤な基礎疾患(例えば、腫瘍や重度の炎症性 疾患など)が存在し、それによる消耗性の体重減少なのかを見極める必要があります。
糖尿病だけでも、インスリン作用不足による異化亢進で体重は減少します。ですから、他に重篤な基礎疾患がなく、一般状態が比較的良好で食欲もある、いわゆる「ハッピーな糖尿病」の範疇に入るのであれば、体重が減少しているからといって、直ちにセンベルゴが使えないわけではありません。
むしろ、血糖コントロールが改善することで、体重が増加する可能性も十分あります。

副作用への対応 ―DKA/DKと消化器症状

司会:センベルゴの副作用として、特に注意が必要なのはケトアシドーシス(DKA)やケトーシス(DK)、そして下痢や嘔吐といった消化器症状かと思います。これらの副作用が発現した場合の対応や、飼い主様への指導について、先生方のご経験やお考えをお聞かせください。

佐藤先生
まず、DKAやDKに関しては、投与開始後の初期(特に1~2週間)に発現しやすいという報告がありますので、この期間は特に注意深いモニタリングが必要です。飼い主様には、食欲不振、元気消失、嘔吐、多飲多尿の悪化といった初期症状を具体的にお伝えし、少しでも異変を感じたら、自己判断せずに速やかに病院に連絡していただくよう、指導しています。
万が一、DKAを発症した場合でも、早期に発見して適切な治療(輸液、インスリン投与など)を開始すれば、従来の膵炎などを併発しているようなDKAと比較して、回復は比較的スムーズである印象を持っています。
福島先生
消化器症状に関しては、多くの場合は一過性で、投与開始後1週間程度で自然に軽快することが多いと言われています。いわゆる「セルフリミティング」な経過を辿ることが期待できます。
プロバイオティクスやプレバイオティクスの併用が、症状の軽減に役立つ可能性も示唆されています。当院では、重篤な消化器症状を発現した症例は今のところありません。

DKAやDKについては、佐藤先生がおっしゃる通り、早期発見・早期対応が鍵となります。海外では「Stitchプロトコル」と呼ばれる対応指針が提唱されており、基本的にはこれに準じた対応となります。
具体的には、Stop Senvelgo(センベルゴの中止)、Insulin(インスリン投与)、Carbohydrate(糖分の補給)、Hydration(輸液による脱水補正)が基本です。特別なことをするわけではなく、通常のDKA治療に準じた対応で問題ありません。
センベルゴ投与中のDKAでは血糖値が正常範囲である場合があります(正常血糖DKA:eDKA)。eDKAの場合でもインスリンの投与は必ず行ってください。血糖値の上昇を待ってからインスリンの投与を行うのではなく、グルコースを投与しながらインスリンを投与するようにします。

重要なのは、センベルゴを使用している猫で体調 不良が見られた場合、速やかにケトン体のチェックを行うことです。尿中ケトン体試験紙などを活用し、早期に異常を察知することが、重篤化を防ぐ上で 非常に重要です。

もっと詳しい内容を知りたい方は

今回の佐藤先生、福島先生のインタビュー記事の全内容をPDFにてまとめております。
もしご興味ございましたら、下ボタンよりダウンロードいただき、ご覧くださいませ。

インタビュー全文はこちら

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