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記事の最後にTRVA動物医療センター 院長の塗木貴臣先生からご提供いただいた腹部スラストのやり方動画を掲載しております。ぜひご覧ください。
アポモルヒネを投与した犬の嘔吐誘発率と腹部スラストの関連性について、Trevor T. Chan氏らは31頭の犬を用いてプロスペクティブに調査を実施した。その結果、腹部スラストは犬の嘔吐誘発率を上昇させることが明らかになった。結果はJournal of the American Veterinary Medical Association 2024年7月号に掲載された。
研究の背景
アポモルヒネは犬の催吐処置時に一般に使用される薬剤の一つである。アポモルヒネを静脈内投与された犬は1〜2分以内に嘔吐が誘発され、その成功率は82〜97%であることが過去の研究において報告されている。
嘔吐誘発率を上昇させるために、アポモルヒネの投与と同時に実施される処置の一つが腹部スラストである。腹部スラストは腹部に外側から圧をかけ、迷走神経および交感神経を介して化学受容器引き金帯を刺激することが嘔吐誘発の機序として考えられている。
筆者らは、アポモルヒネ投与後の犬における腹部スラストの実施が嘔吐の誘発率に影響を及ぼすかどうか、調査することを計画した。また、アポモルヒネ投与から嘔吐するまでの時間が腹部スラストにより短縮するかどうかも合わせて評価することとした。
2022年10月から2023年3月の間に来院した犬のうち、毒素または異物摂取のために催吐処置を提案された症例をプロスペクティブに組み入れした。
腹部スラストが困難な性格の犬、アポモルヒネ以外の催吐薬を投与した犬、すでに制吐薬が投与されている犬、直近の腹部の手術歴や皮膚疾患、外傷、神経筋疾患等が認められる犬はそれぞれ除外した。
研究デザイン
アポモルヒネ 0.03mg/kgを外側伏在静脈あるいは橈側皮静脈のいずれかに静脈内投与した。その後、腹部スラストを行う群と行わないコントロール群に犬を無作為に分け、前者には以下の手法を用いて腹部スラストを実施した。
本研究における腹部スラスト法
臨床医あるいは動物看護師は犬の後方に立ち、両手を犬の最後肋骨のすぐ尾側腹部に置き、指先は正中線に沿うように置いた。
その後、腹部を4~5cmほど頭背方向へ左右同時に圧迫した。各圧迫後は直ちに弛緩させ、1分間に30回を目標として圧迫を繰り返した。
評価
腹部スラスト群とコントロール群において、シグナルメント、体重、嘔吐の有無、投与されたアポモルヒネの用量、投与部位、嘔吐までの時間をそれぞれ比較した。
腹部スラスト群に14頭、コントロール群に17頭、合計31頭の犬が組み入れられた。
年齢(P値 = 0.23)、体重(P値 = 0.53)、最後の食事をしてからの時間(P値 = 0.77)、毒素または異物を摂取してからの時間(P値 = 0.66)、アポモルヒネ投与量(P値 = 0.87)、嘔吐の理由(P値 = 0.72)に関して、両群間に有意差はなかった。
両群の嘔吐成功頭数と嘔吐までの時間について
腹部スラスト群では14頭中14頭(100%)、コントロール群では17頭中13頭(76.5%)の犬に嘔吐を認めた(P値 = 0.02)。
アポモルヒネ投与により嘔吐した犬において、嘔吐までの時間の中央値は腹部スラスト群で90.5秒(36-348秒)、コントロール群では106秒(37-360秒)であった(P値 = 0.29)。
結果は以下の表の通り。
体重はアポモルヒネ投与から嘔吐までの時間に関して負の相関を示した(相関係数 = -0.45、P値 = 0.03)。
腹部スラスト群 コントロール群 P値
アポモルヒネ初回投与後に嘔吐した頭数(%) 14/14(100%) 13/17(76.5%) 0.02
初回投与後の嘔吐までの時間(秒) 90.5 (36-348) 106 (37-360) 0.29
性別(P値 = 0.31)、嘔吐の理由(P値 = 0.44)、年齢(P値 = 0.50)、最後の食事からの時間(P値 = 0.77)、異物または毒素の摂取からの時間(P値 = 0.41)、およびアポモルヒネ投与量(P値 = 0.53)は、いずれも両群間の嘔吐までの時間の差と関連していなかった。
結論
これらの結果から著者らは、腹部スラストはアポモルヒネ投与による犬の嘔吐誘発率の上昇と関連しているが、嘔吐までの時間は短縮しなかったと報告している。
- Highlights
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犬31頭を用いて、腹部スラストの実施が嘔吐の誘発率と関連しているか評価した
腹部スラストによりアポモルヒネ投与から嘔吐までの時間が短縮するかどうかも評価した
腹部スラストの実施により、嘔吐の誘発率は有意に上昇した
腹部スラストの実施によってアポモルヒネ投与から嘔吐までの時間の短縮は認められなかった
犬種や体格で圧迫の深さを考えること、硬いまたは鋭利な異物の誤飲、腹腔内マスを有してる症例の際はリスクがあることに注意してください。
論文情報:https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/262/7/javma.23.12.0681.xml
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。