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犬の血液検査実施前の絶食の検査結果に与える影響について、アメリカのKatarina C. Yi氏らは100頭の健常犬を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、許容総誤差(分析装置において許容される総誤差)または基準変化値(個体内変動及び分析機器の変動から算出される基準変化値)を超えた犬の割合はトリグリセリドで92%、BUNが66%、リンが46%と多く認められたが、参考基準範囲を超える犬は少ないことが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2023年3, 4月号に掲載された。
研究の背景
血清生化学分析項目は、犬の健康評価や疾病管理に日常的に用いられている。溶血、脂肪血症やその他の要因による変動を低減するために、採血前に絶食することがしばしば推奨される。しかしながらこの必要性を支持するエビデンスは少ない。
飼い主側が絶食を厳密に順守することは難しいこともあるため、獣医師が食事の検査結果に与える影響を予測できることが重要である。そこで著者らは健康な犬を用いて、採血前に絶食した検体と食後2, 4, 6, 8時間後に採血した検体を用いて各種検査項目の値を比較、評価することを計画した。
本研究には大学の学生及びスタッフが飼育する臨床的に健康な15kg以上の犬が組み入れられた。
採血と血液生化学検査
検査前日の午後10時以降は食事を与えないよう依頼し、最低10時間以上絶食した状態で採血を行った(ベースライン)。その後、フードの食後2時間、4時間、6時間、8時間後にも採血を行った。その後自動分析装置(Beckman Coulter AU680)を用いてトリグリセリド、BUN、リン、グルコース、ビリルビン、SDMA、クレアチニン、コレステロール、アルブミン、リパーゼを測定した。
評価
食後測定値は、公開されている許容総誤差(分析装置において許容される総誤差)を用いてベースライン(絶食状態)の値と比較した。これらの値はAmerican Society for Veterinary Clinical Pathologyによって決められており、各分析項目の装置における最大の許容分析誤差の品質目標を示しており、これを超えると臨床的意思決定に影響を与える可能性があるとされている。(つまりこの値を超えて変動している場合は機器の測定誤差ではなく、臨床的意思決定に影響を与えるほどの変化が起きている可能性があるとみなせる)
なお、SDMAについては許容総誤差が公表されていないため、最近報告された基準変化値(個体内変動及び分析機器の変動から算出される基準変化値)である43%を用いて比較した。(連続する2つのSDMA測定値の間において43%を超える変化は、自然変動だけに起因した変化ではないとみなせる)
分析項目 許容総誤差
トリグリセリド 25%
BUN 12%
リン 15%
グルコース 20%
ビリルビン 30%
クレアチニン 20%
コレステロール 20%
アルブミン 15%
食後の各項目の測定値がベースラインと比べて上表の値を超えて変動した犬の割合を算出した。また、同時に各検査項目の参考基準範囲を超えた犬の割合を算出した。
本研究には100頭の健康な犬が組み入れられた。年齢中央値は5歳であった。全ての犬が市販食を与えられていた。
食後に許容総誤差、基準変化値を超えて増加した犬の割合
食後に許容総誤差(SDMAについては基準変化値)を超えて増加した犬の割合はトリグリセリドが92%、BUNが66%、リンが46%、グルコースが17%、ビリルビンが9%、SDMAが5%、クレアチニンが2%、コレステロールとアルブミンは0%であった。
各検査項目の詳細は下表のとおり。(増加した個体のみを記載)
分析項目 | 2時間後 | 4時間後 | 6時間後 | 8時間後 |
---|---|---|---|---|
トリグリセリド | 81頭 | 79頭 | 64頭 | 53頭 |
BUN | 19頭 | 61頭 | 61頭 | 51頭 |
リン | 6頭 | 18頭 | 35頭 | 39頭 |
グルコース | 10頭 | 8頭 | 6頭 | 7頭 |
ビリルビン | 5頭 | 6頭 | 3頭 | 3頭 |
SDMA | 2頭 | 1頭 | 3頭 | 2頭 |
クレアチニン | 1頭 | 1頭 | 1頭 | 1頭 |
コレステロール | 0頭 | 0頭 | 0頭 | 0頭 |
アルブミン | 0頭 | 0頭 | 0頭 | 0頭 |
リパーゼ | 2頭 | 1頭 | 1頭 | 1頭 |
ベースライン(絶食時)の値が参考基準範囲内であったにも関わらず、食後に参考基準範囲を超えた犬の割合は下表のとおり。
項目 | 割合 |
---|---|
トリグリセリド | 34%(33頭/97頭) |
BUN | 0%(0頭/99頭) |
リン | 1%(1頭/97頭) |
グルコース | 6%(6頭/99頭) |
ビリルビン | 1%(1頭/100頭) |
SDMA | 11%(10頭/91頭) |
クレアチニン | 0%(0頭/99頭) |
コレステロール | 2%(2頭/92頭) |
リパーゼ | 0%(0頭/98頭) |
結論 論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.16630
これらの結果から著者らは、食事によって許容総誤差を超えて上昇する個体は多かったが、参考基準範囲を超えて変化するほどの個体は多くはなく、臨床現場における検査の解釈を変えるほどの影響は少ないと報告している。ただし、トリグリセリドなどは参考基準範囲を超えた犬が多く認められたことから食事の影響を少なくするために絶食することは役立つだろうと述べている。
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絶食時と比較して食後の測定値が許容総誤差を超えて変動した犬の頭数と、参考基準範囲を超えた犬の頭数を算出
食後に許容総誤差を超えて変動した犬の割合はトリグリセリドで92%、BUNが66%、リンが46%と多く認められた
一方で絶食時に参考基準範囲内だった犬が食後に参考基準範囲を超えた頭数は少なかった(トリグリセリドのみ33頭/97頭)
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。