今回は循環器の専門医の先生方に、僧帽弁閉鎖不全症に対するACE阻害剤の位置付けについて竹村直行先生、平川篤先生、合屋征二郎先生に臨床現場での経験をふまえて対談していただきました。
はじめに
今日は僧帽弁閉鎖不全症(以下 MMVD)に対する治療に限定して話を進めていきます。
EPIC studyが発表されて以来、MMVDの治療にACE阻害剤(以下 ACEI)を使用する獣医師が減少しているように感じます。特に若い獣医師の使用が減少しており、30代以下と40代以上の獣医師では、MMVDの治療方針が大きく変わってきました。実臨床においてACEIが使われなくなって本当によいのか、ACEIをどのように使えば有効性は向上するのかというテーマで先生方と意見交換したいと思います。
EPIC studyが発表されて以来、MMVDの治療にACE阻害剤(以下 ACEI)を使用する獣医師が減少しているように感じます。特に若い獣医師の使用が減少しており、30代以下と40代以上の獣医師では、MMVDの治療方針が大きく変わってきました。実臨床においてACEIが使われなくなって本当によいのか、ACEIをどのように使えば有効性は向上するのかというテーマで先生方と意見交換したいと思います。
Q1. ACEI使用のメリットは?
最近のMMVD治療を見て少し懸念していることがあります。薬物治療をピモベンダンで開始し、病態の進行により咳などの臨床症状が悪化したら、私たちは心負荷を減らすためにACEIやアムロジピンといった血管拡張薬を追加すると思います。
しかし、ピモベンダンの次にフロセミドを追加し、それでも咳が治まらないとさらにフロセミドを増量する獣医師がいらっしゃいます。
その結果BUNやCreの上昇やカリウム低下により、コントロールができなくなって大学病院へと紹介される症例が散見されます。ACEIを使わないということは、MMVDを管理する上で自ら武器を減らしてしまっているように思えるのですが、先生方はどうお考えですか?
しかし、ピモベンダンの次にフロセミドを追加し、それでも咳が治まらないとさらにフロセミドを増量する獣医師がいらっしゃいます。
その結果BUNやCreの上昇やカリウム低下により、コントロールができなくなって大学病院へと紹介される症例が散見されます。ACEIを使わないということは、MMVDを管理する上で自ら武器を減らしてしまっているように思えるのですが、先生方はどうお考えですか?
当院への紹介患者でもACVIMガイドラインステージ(以下ステージ)Cでピモベンダンと利尿薬のみでACEIを全く使っていないという症例は見かけます。
ステージCの症例のうちリバースリモデリングが認められる症例は、ACEIが投薬されているように感じます。
もちろんACEIが投薬されている全ての症例でリバースリモデリングが起きるわけではありませんが、ACEIには何らかの効果があるように考えています。
最近ではステージCでもACEIを投薬されない先生もいますが、必ず投薬した方がいいと思います。
ステージCの症例のうちリバースリモデリングが認められる症例は、ACEIが投薬されているように感じます。
もちろんACEIが投薬されている全ての症例でリバースリモデリングが起きるわけではありませんが、ACEIには何らかの効果があるように考えています。
最近ではステージCでもACEIを投薬されない先生もいますが、必ず投薬した方がいいと思います。
若い獣医師はACEIをあまり使わないというのは私も感じており、獣医師を対象にSNSで質問したことがあります。
ステージB2以降でACEIの使用について質問したところ、“必ず使う”が10%、“必要があれば使う”が80%、“全く使わない”が10%でしたので、やはりACEIを使わない獣医師は一定数いると思いました。
最近の先生方はEBM重視の方が多く、ACEIを使用しない理由としてエビデンスが弱いからと聞いたことがあります。
ステージB2以降でACEIの使用について質問したところ、“必ず使う”が10%、“必要があれば使う”が80%、“全く使わない”が10%でしたので、やはりACEIを使わない獣医師は一定数いると思いました。
最近の先生方はEBM重視の方が多く、ACEIを使用しない理由としてエビデンスが弱いからと聞いたことがあります。
私は日本で発売された何種類かのACEIの臨床試験に、当時携わりました。その試験はACEIを4週間投薬し、レントゲンや血液検査、臨床症状への効果を調査するものでした。
その臨床試験の結果、ACEIが承認されたということは、その有効性が確認されたということです。
若い獣医師が考えているであろうエビデンスに関する研究は、主に生命予後や心不全が悪化するまでの日数を比較しています。つまり、我々がACEI発売当時に行った試験とは全く異なる研究です。
また以前、VALVE Studyの結果が発表されたとき、ステージCの症例にはACEIが不要だと思い、ピモベンダンとACEIを併用していましたがACEIを休薬した症例が2例いました。1例は休薬から1週間で突然死しました。
もう1例は1ヶ月後に検査したところ、VHSや咳の悪化が認められたので慌ててACEIを再投薬すると心臓サイズや咳の症状も元に戻りました。この経験から、ACEIを開始したら基本的には休薬しない方がいいのかなと考えています。
その臨床試験の結果、ACEIが承認されたということは、その有効性が確認されたということです。
若い獣医師が考えているであろうエビデンスに関する研究は、主に生命予後や心不全が悪化するまでの日数を比較しています。つまり、我々がACEI発売当時に行った試験とは全く異なる研究です。
また以前、VALVE Studyの結果が発表されたとき、ステージCの症例にはACEIが不要だと思い、ピモベンダンとACEIを併用していましたがACEIを休薬した症例が2例いました。1例は休薬から1週間で突然死しました。
もう1例は1ヶ月後に検査したところ、VHSや咳の悪化が認められたので慌ててACEIを再投薬すると心臓サイズや咳の症状も元に戻りました。この経験から、ACEIを開始したら基本的には休薬しない方がいいのかなと考えています。
Q2. ACEI使用のデメリットは?
逆にACEIのデメリットを感じた経験はありますか?
私は、脱水気味のタイミングでACEIを投薬すると良くない作用が出る可能性があるかなと考えています。
私は、脱水気味のタイミングでACEIを投薬すると良くない作用が出る可能性があるかなと考えています。
既にピモベンダンとフロセミドが投薬されていた間質性肺水腫疑いの症例に、高用量のACEIを開始したところ、一気にBUN・Creが上昇した症例がいました。
休薬するとすぐに元に戻りました。
休薬するとすぐに元に戻りました。
私も同感です。身体検査上での脱水が認められていなくても利尿剤がある程度の用量で投薬されているなど、理論上脱水していてもおかしくない状態の場合にはACEIを投薬することは避け、ピモベンダンの増量などで対応します。
Q3. ACEIの処方タイミングは?
ステージB1やB2で既にピモベンダンが投薬され問題がなければ、積極的にはACEIを追加投薬しません。ただし検査で病態が進行していると判断した症例や、症状が悪化した場合には積極的に追加するようにしています。
例えば血圧が高い症例にはACEIを追加します。血圧を測定している獣医師は一般的に少ないというのも、ACEIが選択肢に入らない理由のひとつかなと考えています。
また他院から紹介されたピモベンダン投薬症例で、ピモベンダンによりステージB2からB1へと変わったのか、そもそもステージB1で投薬開始されているのか分からない症例がいます。そのような場合は一旦ピモベンダンを休薬してACEIへと変更することもあります。
例えば血圧が高い症例にはACEIを追加します。血圧を測定している獣医師は一般的に少ないというのも、ACEIが選択肢に入らない理由のひとつかなと考えています。
また他院から紹介されたピモベンダン投薬症例で、ピモベンダンによりステージB2からB1へと変わったのか、そもそもステージB1で投薬開始されているのか分からない症例がいます。そのような場合は一旦ピモベンダンを休薬してACEIへと変更することもあります。
既にピモベンダンが投薬されて、ご家族が左房拡大による咳に困っているときに使うことが多いです。
通常はステージB2から使用しますが、血圧・蛋白尿の有無によってはステージB1でも使うことがあります。
以前ステージB1でピモベンダンを投薬していた症例で左室肥大が悪化した犬を診たことがあるため、投薬するときは適切なタイミングかどうか考えて使います。
通常はステージB2から使用しますが、血圧・蛋白尿の有無によってはステージB1でも使うことがあります。
以前ステージB1でピモベンダンを投薬していた症例で左室肥大が悪化した犬を診たことがあるため、投薬するときは適切なタイミングかどうか考えて使います。
ステージB1とB2の唯一の違いはEPICリモデリングが成立しているかどうかと思いますが、私の経験上EPICリモデリングが成立していなくても咳や運動不耐性が認められる症例が多く、そのような症例はステージB1であっても薬物治療を行うべきだと考えています。
私はステージB1でも咳や運動不耐性が認められる場合にはACEIを追加しますし、実際に効果を実感しています。
またMMVDの症状が顕著でなくても、前の犬をMMVDで亡くしたご家族が心配で何かしたいと希望する場合に投薬することもあり、これもある種の医療だと思っています。
私はステージB1でも咳や運動不耐性が認められる場合にはACEIを追加しますし、実際に効果を実感しています。
またMMVDの症状が顕著でなくても、前の犬をMMVDで亡くしたご家族が心配で何かしたいと希望する場合に投薬することもあり、これもある種の医療だと思っています。
Q4. ACEIの用法用量は?
次にACEIを使うときの用量を教えてください。私は、運動不耐性や咳などの症状が重度であれば、添付文書の上限量をBIDで投薬することもあります。
症状が軽度であれば、添付文書用量内でBIDで投薬しています。
症状が軽度であれば、添付文書用量内でBIDで投薬しています。
私自身が低血圧なのですが、血圧が低いと活動性や食欲が落ちたりすることは身をもって経験していますので、一気に血圧を下げるのは良くないと思っています。
ですから開始時は低用量からスタートして症状を見ながら増量していきます。添付文書の用量で投薬しますが、ご家族と相談しながら適宜増減するときに症例に必要な量が推奨用量を超えることもあります。
ですから開始時は低用量からスタートして症状を見ながら増量していきます。添付文書の用量で投薬しますが、ご家族と相談しながら適宜増減するときに症例に必要な量が推奨用量を超えることもあります。
Q5. ACEIの使い分けは?
竹村先生はACEIの使い分けはどうされていますか?私は心拍数を重要視しているので、心拍数が高い時にはアラセプリルを使います。
アラセプリルは、心拍数、血圧を下げる作用があるという点が特徴だと思っています。
平均血圧が120mmHgを超えている場合はアムロジピンを使いますが、100~110mmHg程度で、少しだけ下げたいような場合にはアラセプリルを選択します。
アラセプリルは、心拍数、血圧を下げる作用があるという点が特徴だと思っています。
平均血圧が120mmHgを超えている場合はアムロジピンを使いますが、100~110mmHg程度で、少しだけ下げたいような場合にはアラセプリルを選択します。
大学病院で採用されているのはアラセプリルとベナゼプリルです。
当院に紹介されてきた時点ではベナゼプリルが処方されていても、頻脈傾向にある症例にはアラセプリルに変更することもあります。
院内での心拍数が130~140回/分を超えると心臓病の関連死のリスクが高いという報告があるので、130回/分を一つの目安として考えています。
当院に紹介されてきた時点ではベナゼプリルが処方されていても、頻脈傾向にある症例にはアラセプリルに変更することもあります。
院内での心拍数が130~140回/分を超えると心臓病の関連死のリスクが高いという報告があるので、130回/分を一つの目安として考えています。
臨床の先生方へのメッセージ
ACEIは通常SID投薬が多いと思うのですが、効果を実感できない先生方もいるのではないかと思います。
その場合はBIDにしてみてはどうでしょうか。また、日常的に血圧を測定してほしいと思います。
そうすることでACEIが有効な症例がわかりやすくなると思います。
その場合はBIDにしてみてはどうでしょうか。また、日常的に血圧を測定してほしいと思います。
そうすることでACEIが有効な症例がわかりやすくなると思います。
循環器疾患は超音波検査が主要と考えている先生方が多いですが、私も身体検査や血圧測定はとても大切な検査と思いますので、必ず行ってください。
一言でステージBと言っても、血圧が高い子もいれば腎機能が低下している子、気道軟化症を併発している子など様々な症例がいます。それを全て一括りにしてピモベンダンの処方にしてしまうのではなく、その子に合わせた治療を行ってほしいと思います。
本日はありがとうございました。
本日はありがとうございました。
提供
物産アニマルヘルス株式会社