今回はどうぶつの総合病院 内科主任の佐藤雅彦先生にセンベルゴ®で投薬管理した糖尿病の猫2例についてご執筆いただきました!
症例①
ノルウェージャンフォレストキャット、14歳、避妊雌
約7カ月前に健康診断で高血糖を確認、多飲多尿もみられた。治療として、自宅でのインスリン注射を提案したが、難しいとのことで、炭水化物消化阻害薬であるアカルボースの経口投与で経過をみることとなった。
しかし、治療開始後も多飲多尿は継続し、体重減少が進行したとのことで、紹介来院した。
初診時
元気・食欲は100%だが、飲水量1,000mL/ 日、体重3.7kg(過去は5~6kg)、BCS3/9、MCS(マッスルコンディションスコア)中程度減少であった。
血液検査・尿検査結果(下図)から、βヒドロキシ酪酸濃度が0.4mmol/L であったことからセンベルゴ®の適応症例であると考えられた。
その他の疾患を除外するためのIGF-1、腹部超音波検査を提案したが、経済的理由から実施は見送り、センベルゴ®で治療を開始することとなった。
経過
経過を上図にまとめた。
βヒドロキシ酪酸濃度は0.2~0.3mmol/Lと低い値を維持していたため、センベルゴ®の使用を継続した。
その間、血糖値、フルクトサミンはすぐに低下することはなかったが、徐々に低下がみられ、それにともない体重増加、飲水量の減少が認められた。
まとめ
血糖値やフルクトサミンの値はすぐに低下しなかったが、センベルゴ®の治療を継続することで、徐々にそれらの数値の低下がみられ、臨床症状も改善した症例である。
ケトン体が増加しなかったためセンベルゴ®を継続使用した。今回のように治療の効果が認められるまで少し時間がかかる症例もいるため、ケトン体の増加もなく、状態が安定している症例は6ヶ月程度治療を継続してからその効果を判断すると良いと思われる。
症例②
雑種猫、10歳、去勢雄
約45日前にDKA で入院したことで糖尿病が判明。その後治療を行いDKAから回復し、グラルギン1Uを1日2回のインスリン治療を行っている。
注射の負担が大きいため、経口薬での管理を希望され、紹介来院した。
初診時
血液検査結果の推移を下図に示した。初診時、βヒドロキシ酪酸濃度が0.2mmol/Lであったことから、センベルゴ®の使用を開始することとした。
経過
センベルゴ® を開始して3日目にモニタリングに来院していただいた。
元気・食欲など一般状態は問題なかったが、血液検査にて、βヒドロキシ酪酸濃度が7.2mmol/L、HCO3-11.0mmol/L、PvCO2 が25.0mmol/L と代謝性アシドーシスおよび呼吸性の代償が認められ、DKAの症状を呈する寸前の状態であると考えられた。
ただちにセンベルゴ®の使用を中止し、グラルギン1U、1日2回の治療に戻した。グラルギンに戻してから4日後の血液検査でβヒドロキシ酪酸濃度は0.5mmol/Lまで低下し、HCO3-、PvCO2も正常化した。
まとめ
インスリン治療からセンベルゴ®への切り替えを行ったが、センベルゴ®での管理は難しかった症例である。
なお、センベルゴ®の投薬を中止した後の効果持続時間は、個体差が大きく2~5日程度持続することもある。
ケトン体は陽性だが一般状態が安定している症例では、センベルゴ®を中止した後、血糖値が270mg/dL 程度に達してからインスリンを開始するとよい。
症例報告提供:ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスジャパン株式会社