VETS TECH

新しい猫腎性貧血治療薬の選択肢:バレンジン®の作用機序と特長

どうぶつの総合病院
専門医療&救急センター 内科主任
米国獣医内科学専門医、アジア獣医内科学専門医

新しい猫腎性貧血治療薬の選択肢
バレンジン®の作用機序と特長

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)の猫では、貧血は代表的な合併症の一つであり、その発症率はInternational Renal Interest Society (IRIS)ステージの進行とともに増加する。貧血は活動性や生活の質(QOL)の低下を招くだけでなく、腎機能のさらなる悪化にも関与する可能性があることから、適切な時期に治療を開始することが重要である。以前は、腎性貧血によりPCVが20%程度まで低下した段階で治療介入を検討するとされてきた。しかし、重度の貧血に進行する前に治療を開始することが望ましいとの考えから、現在のIRISガイドラインでは、Htが25%未満の場合、または25〜28%の状態が持続する場合に治療開始が推奨されている1。

これまで猫の腎性貧血治療では、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis-stimulating agent:ESA)が主な治療選択肢であった。近年、新たな作用機序を有する低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase:HIF-PH)阻害薬であるバレンジン®(モリデュスタット)が猫用医薬品として承認され、腎性貧血治療の選択肢は大きく広がった。本稿では、HIF-PH阻害薬の作用機序とESAとの違いについて概説するとともに、腎性貧血治療における新たな可能性について考察する。

① HIF-PH阻害薬の作用機序

病態:CKDに伴う貧血は、腎臓からの内因性エリスロポエチン(EPO)産生低下だけで生じるわけではない。CKDでは、慢性的な炎症によりヘプシジンが増加し、鉄の利用効率が低下する「機能的鉄欠乏」が生じるほか、赤血球寿命の短縮など複数の機序が重なって腎性貧血が発症する2。

薬理作用:HIF-PH阻害薬は、HIF-PHを阻害することでHIF-αの分解を抑制し、生体の低酸素応答を活性化する(図1)。その結果、内因性EPO産生が促進されるだけでなく、ヘプシジンが低下することで腸管からの鉄吸収や貯蔵鉄の動員も促進される2。このようにHIF-PH阻害薬は、「内因性EPO産生の促進」と「鉄利用能の改善」という二つの作用を介して、効率的な赤血球造血を促進する。

従来のESA製剤は主にEPOを補充あるいは刺激することで造血を促進するのに対し、HIF-PH阻害薬はEPO産生と鉄代謝の両方に作用する点が大きな特徴である。ヒト医療においても、この鉄利用能改善作用はHIF-PH阻害薬を特徴づける重要な作用の一つと位置付けられている※。

※ヒト医療における知見に基づいています

② ESAとの違い

ESAは体外からEPO作用を補うことによって赤血球造血を促進する治療である。一方、HIF-PH阻害薬は内因性EPO産生を促進するとともに、鉄利用能を改善することで赤血球造血を促進する。このように、EPO産生と鉄代謝の両方に作用する点が、HIF-PH阻害薬の大きな特徴である(表1)。

もちろん、ESAとHIF-PH阻害薬に優劣があるわけではなく、それぞれの特徴を理解した上で、症例ごとに適切に使い分けることが重要である。薬剤選択にあたっては、病態だけでなく、経口投与あるいは注射投与に対する猫およびご家族のアドヒアランスも重要な判断材料となる。

ヒト医療では、活動性悪性腫瘍ではHIF-PH阻害薬を使用しないことがガイドラインで推奨されている2。また、多発性嚢胞腎では病態悪化の可能性が懸念されることから、透析を受けていない患者では使用しないことが推奨されている2。一方、ESAに対する反応性が低い症例や、慢性炎症に伴う鉄利用障害が関与すると考えられる症例では、HIF-PH阻害薬の特性を活かした治療効果が期待される。

③ 今後の展望

これまで猫の腎性貧血治療ではESAが中心であったが、HIF-PH阻害薬であるバレンジン®(モリデュスタット)の登場により、治療選択肢は広がった。海外臨床試験では約7割の症例で貧血の改善が認められ、安全性も良好であることが報告されている3。

実際に使用した印象としては、経口懸濁液で在宅投与が容易であり、フィッシュオイルフレーバーによる嗜好性も良好であることから、多くの猫で無理なく継続投与できる点は大きな利点である(動画)。特に、注射のための通院ストレスを軽減できることは、CKD猫とそのご家族双方のQOL向上にも寄与する可能性がある。

一方で、HIF-PH阻害薬は比較的新しい薬剤であり、長期的な安全性については今後さらなるエビデンスの蓄積が期待される。今後は、症例ごとの病態や併存疾患を踏まえながら、ESAとHIF-PH阻害薬を適切に使い分けることで、より個々の症例に適した腎性貧血管理が実現されることが期待される。

参考文献を表示する

1. IRIS Guidelines Treatment Recommendations for CKD in cats (modified 2026)

2. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Anemia Work Group. KDIGO 2026 Clinical Practice Guideline for the Management of Anemia in Chronic Kidney Disease (CKD). Kidney Int. 2026;109(1 Suppl):S1–S99. doi:10.1016/j.kint.2025.06.006.

3. Schmidt F, Ringeisen H, Fent G, Langston C, Collins R, Charles S. Effectiveness and long-term safety of repeated oral administrations of molidustat in the management of anemia associated with chronic kidney disease in cats. J Vet Intern Med. 2026;40(1):aalaf079. doi:10.1093/jvimsj/aalaf079.

PM-JP-26-0442

動物病院専用AIチャットボット「VETS CHAT」

電話に追われず、来院につながる病院へ。
病院の情報をもとに、夜間も休診日もAIチャットがお答えします。
飼い主様は、知りたいことをすぐに。
スタッフは、目の前の診療に集中できる毎日へ。

VETS CHATの詳細

記録されている安心感「VETS NOTE」

診察音声から獣医療専用SOAPカルテや検査所見、報告書まで生成するAI音声カルテ『VETS NOTE』
早くも多くの病院様にご導入していただいております!

ご導入病院様のインタビューも掲載

LINEでオートログイン&ECサイトオープン!

直近のセミナー開催予定

Instagram「ベッツテックの中のひと」

VETS TECHの中のひとらが撮影・企画の裏側などを色々と発信しております!

のぞいてみる