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失神の原因が2種類認められたイヌ糸状虫症のイヌの1例


第11回目のケースレポートの前に第10回のアンケート結果に対するコメントを竹村 直行先生から頂戴しております!

日本獣医生命科学大学・教授
日本臨床獣医学フォーラム・理事・学術顧問
前回のアンケートのコメント
【設問1】左室流出路閉塞を伴う猫への強心薬使用

 左室流出路閉塞を伴うネコでの強心薬(ここではピモベンダンを前提にします)の有効性を指摘した研究論文がいくつかあります。これに対して、有害だったと報じた論文は私の知る限りはありません。このため、左室流出路閉塞の有無は強心薬を使用する・しないに影響しない、と考えて良いと私は考えています。

【設問2】強心薬での有害事象について

 実は私にはこのような経験をしたことがありません。私の場合、うっ血性心不全に陥ったネコに強心薬を用いることが多いのですが、うっ血性心不全に陥っていなくても、左房が高度に拡大している症例でもできるだけ強心薬を使用するようにしています。つまり、血行動態が不安定なネコにピモベンダンを使用することになります。明確な根拠はありませんが、私と同様の方針でネコに強心薬を使用されている先生は多いのではないでしょうか?
 無論、強心薬は薬剤ですから、有害事象の原因になる可能性はあります。しかし、それと同時に、強心薬を開始したタイミングで偶然にも心機能が悪化したというストーリーも考えられると思います。次のQ3で具体的な有害事象として心不全の悪化を挙げた先生が約7割いらっしゃったことは、この推測の傍証になるかも知れません。

【設問3】有害事象の種類について

 左室流出路が閉塞している場合、強心薬の投与により左室肥大が悪化する可能性があると理論的には考えられます。しかし、私は強心薬開始後に左室肥大が悪化した症例を経験したことがありません。
 左室肥大が悪化したと判断する前に、2つほど注意すべき点があります。第1に、水和状態の影響です。脱水すると左室自由壁厚も心室中隔壁厚も増大します。このため、過去の壁厚と比較する場合、水和状態を必ず考慮しなければなりません。また、頻脈も壁厚を増大させます。過去の壁厚と比較する際、心エコー図検査中の心拍数も考慮しなければなりません。
 その他の有害事象にどのようなものが含まれるのか、私には想像できませんが、イヌでは胃腸障害が挙げられているので、ネコでも同じなのかも知れません。また、イヌでは不整脈の発生率を高めたという報告があり(高めなかったという報告もある)、ネコでも同様の現象が見られるのかも知れません。いずれにしても、ネコではピモベンダンに関する文献は少なく、今後の研究成果を注視する必要があるでしょう。

第11回目のケースレポートは日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科の竹村直行先生、小川実月先生です。

1.はじめに

失神の原因の1つに心拍出量の低下が挙げられる。心拍出量の低下に伴う失神の鑑別診断を表1に示す[1]。これらの原因の対処法はいずれも異なるため、失神の原因を鑑別することは、治療方針の策定時に非常に重要である。表1に示す通り、イヌ糸状虫 (Dirofilaria immitis)が肺動脈に寄生することで生じるイヌ糸状虫症でも、心拍出量の低下によって脳への血液灌流量が減少し、失神を招くことがある[2]。またこの疾患では、肺高血圧症 (PH)を合併することで、失神が発生・悪化することもある。しかし、イヌ糸状虫症に罹患したイヌの失神の原因が必ずしもPHとは限らないため、常に表1に示した原因を鑑別する必要がある。今回、イヌ糸状虫症に伴うPHによる失神が認められていたものの、1年後には徐脈性不整脈による失神が発生した症例を経験したので報告する。

2.症例の概要および初診時所見
症例は未避妊雌、推定8歳齢のイングリッシュ・コッカースパニエルである。主訴は失神で、この失神は当科初診の約2ヶ月前から興奮時に1日2-5回の頻度で認められていた。かかりつけ医が実施したイヌ糸状虫抗原検査は陽性を示し、画像検査にて心拡大が認められたため、イヌ糸状虫症と診断され、ピモベンダン(0.25mg/kg, 1日2回)が処方されていた。しかし、ピモベンダン開始以降も依然として失神は持続していた。

当科初診時 (第1病日)、食欲および活動性は正常で、失神以外の臨床徴候は認められなかった。また、本症例は保護犬であったため、既往歴は不明であった。

身体診察では体重は15.8kgで、BCSは2/5であった。毛細血管再充満時間 (CRT) は1秒未満で、皮膚つまみ試験は正常、そして口腔内は湿潤していたことから、水和状態は正常と判断した。可視粘膜はピンク色で、そして大腿動脈は正常に触知できた。心拍数は64回/分で、心雑音は聴取されなかった。呼吸数は16回/分で、肺の副雑音は聴取されなかった。

心電図検査では、心拍数は47-51回/分と徐脈を示し、第1度房室ブロックおよび第2度房室ブロック (モビッツⅠ型)が確認された (図1)。これらの不整脈の発生時に、失神は認められなかった。

胸部X線検査では、側面像で測定した椎骨心臓サイズ (VHS)および椎骨左房サイズ (VLAS) は、それぞれ11.7vおよび2.2vと基準値を超えていたが、明らかな左房拡大は確認されなかった (写真1)。背腹像でも左心耳は突出していなかったが、心陰影は逆D型を示し、右心拡大が認められた (写真2)。側面像および背腹像にて肺動静脈の拡張に加え、肺動脈の切り詰め像が確認された。肺野では、軽度の間質パターンが認められた。

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心エコー図検査では、僧帽弁、三尖弁および大動脈弁の逆流は認められなかったが、右側傍胸骨心基部短軸像にて、イヌ糸状虫および肺動脈弁逆流が認められた (動画1)。
動画1

肺動脈弁逆流血流速は3.33m/秒であった (図2)。心室中隔の扁平化により左室内腔は圧排されていたが、心室中隔の奇異性運動は認められなかった (図3)。右側傍胸骨左室短軸像では、左房内径および左房内径/大動脈根内径比 (LA/Ao) は、それぞれ28.56mmおよび1.36と左房拡大は認められなかった (図4)。

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3.治療及び臨床経過
以上のことから、本症例を犬糸状虫症、PHおよび房室ブロックと診断した。徐脈性不整脈も認められたが、失神が発生するタイミングは興奮時であったことから、失神の原因はイヌ糸状虫症に伴うPHと判断した。そのため、ピモベンダンを0.25mg/kg, 1日2回から0.50mg/kg, 1日2回に増量した。シルデナフィルの投与も検討したが、この薬は非常に高額であることから、ピモベンダン増量後に臨床徴候が改善しない場合には1mg/kgで追加する予定とした。

その後、本症例はかかりつけ医で定期検診を受けていた。ピモベンダンの増量以降、失神の頻度は明らかに減少した。しかし、第215病日頃から失神の頻度が再び上昇した。問診では、失神は第1病日と異なり、安静時に認められるとのことだった (動画2)。かかりつけ医にてピモベンダンがさらに増量されたが (0.64mg/kg, 1日2回)、依然として失神は改善しなかったため、第336病日に再度当科を受診した。
動画2

身体診察では心拍数は132回/分で、左側肺動脈弁領域および右側胸壁からそれぞれLevine3/6の収縮期逆流性雑音が聴取された。また、聴診中に約5秒間の心停止が確認された。心電図検査では、第1および第2度房室ブロック (モビッツⅠ型)に加え、新たに洞停止も確認された (図5)。

胸部X線検査では、VHSおよびVLASはそれぞれ11.1vおよび2.3vと、第1病日と同様だった (写真3)。肺野では、依然として軽度の間質パターンおよび切り詰め像が確認された (写真4)。心エコー図検査では初診時と同様、肺動脈弁逆流 (3.67m/秒)および心室中隔の扁平化が認められた。

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しかし、初診時とは異なり、三尖弁領域で逆流モザイクシグナルが、そして右側傍胸骨心基部短軸像のMモード法では心室中隔の奇異性運動が認められた (動画3および動画4)。三尖弁逆流血流速は4.95m/秒であった。
動画3

動画4
以上のことから、第215病日以降に認められた失神の原因として、PHの悪化および徐脈性不整脈の2種類が考えられた。

心エコー図検査にて三尖弁逆流および中隔の扁平化が新たに確認されたものの、胸部X線検査ではVHSに変化がなかったことから、失神の原因は徐脈性不整脈の可能性の方が高いと考えられた。そこで、ホルター心電図検査を3日間実施した。その結果、洞停止または洞ブロック、心室期外収縮、そして第1および第2度房室ブロック (モビッツⅡ型)が確認された。特に、失神が発生したタイミングと一致して、6.0-8.8秒の洞停止または洞ブロックが認められた (図6)。

以上の結果に基づき、本症例をRubenstein分類 Ⅱ型の洞不全症候群 (SSS)と診断した。陽性変周期作用を発揮するシロスタゾール (10mg/kg, 1日2回)を追加したところ、第366病日には失神の頻度は減少し、発生しない日も多くなった。本稿執筆時点の第414病日 でも失神は増加していない。

日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科
本症例の考察

 本症例は、第1病日から徐脈性不整脈が認められていたものの、ピモベンダン投与後には臨床徴候が改善した。このことから、失神の原因は不整脈ではなく、PHだと思われた。そのため、治療はピモベンダンの増量が妥当だと考えられた。イヌでは、ピモベンダンの推奨用量は0.25mg/kg, 1日2回である。しかし、アメリカ獣医内科学会(ACVIM)によるイヌの僧帽弁閉鎖不全症に関するガイドラインでは、ステージC以上のイヌにはピモベンダンを0.50mg/kgまで増量しても良いと記載されている [3]。イヌ糸状虫症に続発したPHのイヌでも臨床徴候が推奨用量のピモベンダンで改善しない場合には、0.50mg/kgに増量した方が良いのかもしれない。
 PHのヒトでは、右心拡大の進行が洞結節の伸展、そしてそれに伴う虚血または線維化を引き起こし、不整脈を発生させることが報告されている[4]。 PHのヒトで認められる不整脈の多くは頻脈だが、一部の患者では徐脈がみられることもある [5]。そのため、第1病日および第215病日で失神の原因が異なった機序として、PHの進行による右心拡大の悪化、そしてそれに伴う洞結節の虚血または線維化が関係している可能性があると考えられた。本症例の徐脈性不整脈の発生は、PHも関係している可能性があることから、今後シロスタゾールだけで失神のコントロールが困難な場合は、肺動脈拡張薬であるシルデナフィルを追加すべきかもしれない。
 本症例は、ホルター心電図検査を実施したことでSSSと診断できた。SSSの確定診断には、オーバー・ドライブ・ペーシングにて洞結節回復時間または洞房伝導時間の異常を確認することが必要だが、実際には臨床徴候が発現した時の心電図検査所見から臨床診断することが多い[6]。本症例は、第336病日に院内で洞停止が認められたが、その時に失神は認められなかった。院内で実施する心電図検査では多くの場合、動物が緊張または興奮状態にあるため、徐脈性不整脈による失神は認められない[7]。本症例は、院内心拍数が132回/分だったのに対し、自宅での安静時心拍数は50回/分と徐脈傾向にあった。失神が認められる症例では、院内で心電図検査時に失神が確認されなかったとしても、徐脈性不整脈が認められる場合はホルター心電図検査の実施を考慮すべきである。

引用文献
[1] Thompson M. S. (2018): Small animal medical differential diagnosis, 3rd edn. Philadelphia: Elsevier Saunders.
[2] American Heartworm Society (2018): Current canine guidelines for the prevention, diagnosis, and management of heartworm (Dirofilaria immitis). Infection in Dogshttps://www.heartwormsociety.org
[3] Keene B. W., et al. (2019): ACVIM consensus gidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J. Vet. Intern. Med., 33, 1127-1140.
[4] Bandorski D., et al. (2019): Arrhythmias in patients with pulmonary hypertension and chronic lung disease. Herzschrittmacherther. Elektrophysiol., 30, 234-239.
[5] Hoeper M. M., et al. (2002): Outcome after cardiopulmonary resuscitation in patients with pulmonary arterial hypertension. Am. J. Respir. Crit. Care. Med., 165, 341–344.
[6] Ward J. L., et al. (2016): Outcome and survival in canine sick sinus syndrome and sinus node dysfunction: 93 cases (2002-2014). J. Vet. Cardiol., 18:199-212.
[7] Petrie J. P. (2005): Practical application of holter monitoring in dogs and cats. Clin. Tech. Small. Anim. Pract., 20:173-181.

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