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ピモベンダンで長期にわたり治療した無徴候性肥大型心筋症のトイ・プードルの1例


第9回目のケースレポートの前に第8回のアンケート結果に対するコメントを竹村 直行先生から頂戴しております!

日本獣医生命科学大学・教授
日本臨床獣医学フォーラム・理事・学術顧問
前回のアンケートのコメント
【設問1】ピモベンダン製剤の大量摂取の事例経験について

 15.2%という割合を「高い」と思うか、「低い」と思うかで意見が分かれるところですが、これが交通事故の発生率、ないしはある疾患の死亡率に置き換えると、「高い」と受け止めるべきでしょう。
 この設問では大量摂取した経緯や原因を質問していないので、どのような状況で大量摂取が発生しやすいかは不明です。しかし、院内でなく、自宅で発生した例が多いと考えることは妥当でしょう。すなわち、家族の方にピモベンダンに限らず、フレーバーを添加した薬剤の保管には十分に注意するようアドバイスすべきでしょう。

【設問2】大量摂取による異常について

 イヌでは、ピモベンダン製剤の大量摂取が論文で報告された例は極めて少なく、大量摂取後に実施すべき検査・治療は不明です。今回の症例では、過去の報告と同様、大量摂取後に見られた変化は一過性でした。
 今回のアンケートでは,約8割の先生が,「大量摂取後に異常は見られなかった」と回答されています。このうち、血圧を測定された先生がどのくらいいらっしゃるか判りませんが、血圧を測定していれば、「(異常が)認められたが、回復した」という回答割合が増えたかもしれない、と私は考えています。
 この結果を見て、私が気になったのは「(異常が)認められ、その後も持続した」という回答が極めて少数ながらあったことです。この異常とは具体的にどのようなものかは判らないので、この点に関して考察はできませんが、家族の方にアドバイスする際、「大量摂取後に異常な症状が続くことがまれにあるようなので、本当にこの薬の保管には注意して下さい」と申し添えるべきでしょう。

第9回目のケースレポートは日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科の竹村直行先生、徳力剛先生です。記事の最後に診療トレンドをみるための質問があります。アンケート結果に対する竹村先生のコメントが次回のケースレポートで発表されます!

1.はじめに
拡張型心筋症(DCM)はイヌでは心筋症の中で最も一般的な病型で、MMVDに次ぐ後天性心疾患である。これまでにイヌのDCMの原因として、遺伝的素因、ウィルス感染、自己免疫、心筋毒素、タウリン欠乏また穀物制限などの栄養的素因、持続的頻拍が挙げられている【1】。過去の報告では、DCMにより発生したうっ血性心不全(CHF)のイヌでは、ピモベンダンによる治療が有効であることが示されている【2,3】。また、無徴候性DCMに罹患したドーベルマン・ピンシェルにピモベンダンを投与した結果、臨床徴候の発症までの時間を延長し、生存期間を延長することが報告されている【4】。しかし、これらの調査報告の多くが大型犬を対象としており、DCMに罹患した小型犬でのピモベンダンの有効性に関する情報は極めて少ない。今回、我々は無徴候性DCMと診断したトイ・プードルにピモベンダンを投与し、長期間にわたり臨床経過を観察する機会を得たので報告する。
2.症例の概要および初診時所見
症例は5歳2か月齢の未避妊雌のトイ・プードルである(写真1)。本症例は、1歳10か月齢時に小脳性の運動失調を呈し、当センター神経科にて小脳変性性脳疾患と診断・経過観察されていた。

当科初診の2週間前に、陰部からの持続的な不正出血を主訴にかかりつけ医を受診した。子宮内膜炎が疑診され、卵巣および子宮摘出術の術前検査を実施したところ、心エコー図検査で左室の収縮性の低下および重度の拡張が認められた。心臓病に関連した臨床徴候は認められなかったものの、麻酔リスクの評価も含めた心臓の精査のために当科を紹介された。
初診時(第1病日とする)、小脳疾患による測定過大、そして後肢の開脚姿勢による運動失調を呈していたため運動耐性の評価は困難だったが、この点に関して家族は、「以前と変わりなく散歩している」と説明した。食事は主に手作り食で、消化器系に異常徴候は認められず、体重は減少傾向になかった。
身体診察では体重は2.95kgで、BCSは3/5であった。体温は38.7℃、可視粘膜はピンク色で、毛細血管再充満時間(CRT)は1秒未満で、水和状態は正常だった。大腿動脈圧は正常に触知できた。聴診では、心拍数は180bpmで、リズムは一定だった。心雑音は認められなかった。呼吸数は24回/分で、副雑音は認められなかった。オシロメトリック法にて測定した収縮期、拡張期および平均血圧はそれぞれ116、74および89mmHgと正常であった。
心電図検査では、II誘導のP波の増高(0.4mV)に加え、洞頻脈が認められた。
胸部X線検査では、脊椎左房サイズ(VLAS)は2.5と左房拡大が認められ(基準値:2.3未満)、椎骨心臓スケール(VHS)は10.1 vと正常であった(この犬種での基準値:9.7±0.5(平均±SD))[5]。肺野では、軽度の気管支パターンが認められた(写真2および3)。

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心エコー図検査では、左側傍胸骨左室長軸像像で僧帽弁の軽度の肥厚および閉鎖点の上昇、そして重度な左室拡大が認められた(動画1)。同側の左室短軸像では左室収縮性の低下が認められ(動画2)、短縮率(FS)は6.79%と重度に低下し、また左室拡張末期径(LVIDd)は34.8mmと増大していた(写真4)。左房内径大動脈根内径比(LA / Ao)は1.03と、左房拡大は認められなかった(写真5)。左室流入血流速であるEおよびA波は、それぞれ0.81および0.47 m / 秒だった。
動画1

動画2
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C反応性蛋白(CRP)および血清トロポニンⅠ(cTnI)の血清濃度は、それぞれ0.13mg/dlおよび0.239ng/mlと基準値を下回っていた。また、血清甲状腺ホルモン(T4)濃度も2.39μg/dlと正常であった(基準値:1.10-3.60)。

3.治療及び臨床経過
以上の検査結果からDCMと臨床診断した。無徴候であってもDCMの長期予後は不良であること、そして治療があることを家族に伝え、心筋の収縮性を増加させる目的でピモベンダン(0.2mg/kg BID)を開始した。食事に関しては、塩分を控えた高タンパク食および野菜を摂取するよう指示した。また、運動は制限する必要はないに加え。卵巣および子宮摘出術は実施しない方が良いことを伝え、4週間後に再診することとした。
第28病日の診察では、体重は3.05kgに増加していた。ピモベンダンを開始して以降、食欲および活動性は変化しなかったとのことだった。聴診では、心拍数は100bpmで、リズムは一定だった。心雑音は認められなかった。呼吸数は24回/分で、副雑音は認められなかった。収縮期、拡張期および平均血圧はそれぞれ110、57および40mmHgと拡張期圧の低下が認められた。
胸部X線検査ではVLASおよびVHSは初診時と同様だった。肺静脈は拡大していなかった。
心エコー図検査では、FSおよびLVIDdは、それぞれ3.66%および28.3mmで、LA / Aoは1.00と変化はなかった。左室流入血流速であるEおよびA波はそれぞれ0.26および0.76 m / 秒とE波の低下が認められた。また、左室流出路血流速は、1.06および1.58 m / 秒と交互に変化していた(写真6)。

左側傍胸骨四腔断面像では、左房内の肺静脈開口部が拡大していた(動画3)。
動画3
血栓症を除外するため、FDPおよびDダイマーを測定したところ、それぞれ1.8および0.4μg/mlと正常であった(基準値:FDP:0-4.0, Dダイマー:0- 2.0)。またcTnIは 0.216ng/mlと変化は認められなかった。
血液凝固検査に異常がないこと、そして胸部X線検査で肺静脈の拡大が認められないことなどから、初診時と同じ治療を継続することとした。
第84病日の身体診察所見、全身血圧、そして心電図検査所見は、初診時および第28病日のそれらと同様であった。
胸部X線検査では、脊椎左房サイズ(VLAS)は2.6で、VHSは10.3 vと前回と同様だったが、背腹像にて左房拡大が認められた(写真7)。

心エコー図検査では、FSおよびLVIDdは、それぞれ8.51%および33.5mmで、LA / Aoは1.57と軽度に拡大していた。左室流入血流速では、E波は確認できず、A波は1.00および1.34 m / 秒と交代していた(写真8)。また、左側傍胸骨四腔断面像にて僧帽弁逆流が認められ、その血流速は4.91m/秒だった (写真9)。

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以上の結果から、DCMは治療方針を変更するほど悪化していないと判断し、ピモベンダンを同じ用量で継続することにした。
第112病日の問診では、約10日前から乾性の発咳が少しずつ増加し、かかりつけ医で気管支拡張剤および去痰剤を処方されたが、あまり改善していないとのことだった。体重は3.90kgと減少しており、体温は38.6℃であった。活動性に変化はなく、呼吸促迫は認められないとのことだった。身体診察では、可視粘膜はピンク色で、CRTは1秒未満で、水和状態は正常だった。大腿動脈圧は弱く触知できた。聴診では心拍数は180bpmだった。呼吸数は30回/分で、副雑音は認められなかった。
肺エコー検査にて左右の中~後葉にかけてBラインが確認されたため、十分な酸素化を実施後、ストレスをかけずに胸部X線検査を実施した。左右中~後葉にかけて不透過性が亢進した肺葉が確認され、肺水腫が疑われた(写真10)。

ニトログリセリン舌下錠1錠(0.3mg)を膣内に投与し、フロセミド(2mg/kg)を静脈内投与した。利尿剤投与後、12分および27分後に排尿を確認した。さらに45分後に同量のフロセミドを投与した。経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)は96~100%に安定し、胸部X線検査ではVLASは3.1、そしてVHSは10.6 vと心拡大は進行していたが、肺水腫の改善が認められたため、以下の検査を実施した。
血圧測定では収縮期、拡張期および平均血圧はそれぞれ157、74および90mmHgと正常だった。心エコー図検査では、左房および左室の重度の拡大が認められた(動画4)。
動画4

FSおよびLVIDdは、それぞれ12.95%および36.5mmで、LA / Aoは2.14と拡大していた。血液生化学検査では、CRPおよび腎臓パネルはいずれも正常だった。cTnIは 0.279ng/mlと、明らかな変化は認められなかった。
以上の結果より、ピモベンダンを0.4mg/kgに増量し(1日2回)し、さらにフロセミド(0.8mg/kg BID)およびスピノロラクトン(1.0mg/kg BID)を追加した。
第119病日の問診では、発咳は1日2~3回に減少しており、呼吸状態は安定していた。体重は2.80kgに減少していた。身体診察では、可視粘膜はピンク色で、CRTは1秒未満で、水和状態は正常だった。聴診では心拍数は160bpmで、呼吸数は40回/分で、副雑音は認められなかった。胸部X線検査にて肺野の不透過性は確認できなかったため、フロセミドを中止し、残りの2剤を同じ用量で継続することとした。
その後、かかりつけ医にてフロセミドを中止するとCHFを再発したため、ピモベンダン(0.2mg/kg BID)にベナゼプリル(0.5mg/kg BID)およびトラセミド(0.1mg/kg BID)を追加し、約1年間維持している。
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科
本症例の考察

 イヌではDCMの原因として、穀物を含まないマメ科植物に富む食べ物の長期摂取に加え、そしてゴールデンレトリバーではタウリン欠乏症に関連することが報告されている【6, 7】。本症例に与えられていた食事は、野菜および鶏肉を中心とした手作り食だったが、タウリンの補充を家族に提案してもよかったかもしれない。
 本症例では、DCMは麻酔前の検査で偶発的に発見されたが、無徴候期にDCMが確認されることは極めて少ないと思われる。ドーベルマン・ピンシェルでは、DCM発症前のスクリーニング検査として、cTnIおよびNT-proBNPの測定は推奨されていない【8】。その理由は、これらの検査は無徴候期の症例を検出できないからである。
 本症例では、洞頻脈以外の不整脈は認められなかった。しかしDCMでは、心室期外収縮(VPC)がDCM発症前に出現することが多く、VPCの発生数は経過とともに増加し、最終的には収縮不全を来すことがある。DCM発症前のVPC、頻脈、あるいは心室細動による突然死は、イヌでは少なくとも25-30%の症例に発生する【8】。DCMに関連した重篤な不整脈は、通常の心電図検査では見逃す可能性があるため、ホルター心電図検査を追加実施する必要があると考えられる。
 DCMの特徴は心室の収縮不全および拡張不全であるため、心エコー図検査によるこれらの評価が重要である。本症例ではFSにより収縮能を評価したが、拡張早期の僧帽弁前尖と心室中隔の間の距離(EPSS)、あるいはMモード法で測定した最終拡張期長径を僧帽弁輪部から心尖部までの左心室長軸で割った値(SI)なども評価すべきだったかもしれない【8】。
 本症例の心エコー図検査所見として、第28病日目からの左室流出路血流速および第84病日目からの左室流入血流速のA波が心拍ごとに交代する現象が認められたが、この原因または発生機序は明らかにできなかった。
 本症例は、CHFの発生から1年以上生存しているが、63頭のイヌのDCM予後因子を調査した報告では、生存期間は2〜1,108日で中央値は671日だった。特に、腹水が貯留したイヌの中央値生存期間114日(95%信頼区間:40〜350日)と、予後は不良だった【9】。本症例を通じて、無徴候期DCMの小型犬でも大型犬と同様、ピモベンダンは有効と推察される。今後、症例を蓄積し、ピモベンダンの有効性を小型犬のDCMでも検証する必要がある。

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引用文献
[1] Fox, P, R., et al. (1999): Textbook of canine and feline cardiology: principles and clinical practice, 2nd edition. Chapter 27 myocardial disease of dog. W. B. Saunders Company.
[2] Fuentes, L. V., et al (2002): A double-bend, randomized, placebo-cntrolled study of pimobendan with dilated cardiomyopathy. J. Vet. Intern. Med., 16, 255-261.
[3] O’Grady, M, R., et al (2008): Effect of pimobendan on case fatality rate in doberman pinschers with congestive heart failure caused by dilated cardiomyopathy. J. Vet. Intern. Med., 22, 897-904.
[4] Summerfield, N.J., et al (2012): Efficacy of Pimobendan in the Prevention of Congestive Heart Failure or Sudden Death in Doberman Pinschers with Preclinical Dilated Cardiomyopathy (The PROTECT Study). J. Vet. Intern. Med., 26, 1337-1349.
[5] Jespen-Grant, K, Pollard, R. E. and L. R. Johnson (2013): Vertebral heart scores in eight dog breeds. Vet. Rad. Ultrasound., 54: 3-8.
[6] Adin, D., et al (2019): Echocardiographic phenotype of canine dilated cardiomyopathy: Differs based on diet type. J. Vet. Cardiol., 21, 1-9.
[7] Kaplan, J, L., et al(2018): Taurine deficiency and dilated cardiomyopathy in Golden Retrievers fed commercial diets. PLoS. One.,Dec, 13, 13(12).
[8] Wess, G., et al (2017): European Society of Veterinary Cardiology screening guidelines for dilated cardiomyopathy in Doberman Pinschers. J. Vet. Cardiol., 19, 405-415.
[9] Borgarelli, M., et al (2006) : Prognostic indicators for dogs with dilated cardiomyopathy. J. Vet. Intern. Med., 20, 104-110.[10] Tilley L. P. and F. W. K. Smith: Electrocardiography. In: Manual of Canine and Feline Cardiology (4th ed), Tilley L. P., Smith. F. W. K., Oyama. M. A. and M. M. Sleeper ed., pp. 49-77, Saunders-Elsevier, St. Louis, 2008.

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