第7回目のケースレポートはプリモ動物病院相模原中央の白畑壮先生です。
- 1.はじめに
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2歳になるまでに猫の70%、犬の80%が何らかの歯周病を有しており、小型犬・トイ犬種では特に影響を受けやすいとされている。麻酔下歯科治療後、一時的に口腔内環境が改善したにもかかわらず、まもなく歯石や歯周病が再発してしまうことは、獣医療現場において獣医師が苦慮する課題の1つとなっている。外用イヌインターフェロンα製剤(インターベーリーα、ホクサン株式会社:以下IBα)は外用として歯肉に塗布することで歯周病原細菌数を減少させ、歯周病の初期症状の一つである歯肉炎の症状を軽減するとされている。しかし、その予防効果に関して未だ不明な点が多い。そこで今回、歯科処置後の犬の歯周病に対するIBαの長期的予防効果について評価することを検討した。
- 2.材料と方法
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犬30頭において、スケーリング等の麻酔下歯科処置後にIBαを歯肉に塗布した群(n=11)、非投与群(n=19)の、口腔内チオール濃度を処置前、処置後7日, 1, 2, 3, 4, 6, 12か月に計測し比較検討した。また、歯周病が中度から重度の犬18頭において、スケーリング等の麻酔下歯科処置後に抗生剤投与とIBαを併用した群(n=9)、抗生剤のみの投与群(n=9)の、口腔内チオール濃度を処置前、処置後7日, 1, 2, 3, 4, 6, 12か月に計測し比較検討した。
IBαは3日に1回、計10回を1クールとして歯肉に塗布をした。抗生剤はクリンダマイシン(ビルデンタマイシン75)を歯科処置後1週間、10mg/kgとして1日2回の経口投与、またはセフォベシン注(コンべニア注)8mg/kgを歯科処置後に1回皮下注射をした。
歯肉炎の指標となる口腔内チオール濃度の変化は、オーラストリップによって計測し、その平均値を用い、Wilcoxonの順位和検定により検討した。 - 3.結果
- 4.考察
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IBαの作用機序は、口腔内に塗布された後に免疫担当細胞のIFN受容体に結合して、口腔内免疫機能の改善・亢進を促し、抗菌物質ディフェンシンを誘導することで歯周病原細菌が減少し、歯肉炎が軽減すると考えられている。
本研究において、スケーリング後にIBαを投与することによって、口腔内チオール濃度の上昇を12か月にわたり有意に抑制することが確認された。また、抗生剤のみ投与した群と比較し、抗生剤投与とIBαを併用した群で、口腔内チオール濃度の上昇を6か月にわたり有意に抑制することが確認された。口腔内チオールは口腔内細菌により産生され、口臭の一因ともなる物質のため、IBαが口腔内細菌の増殖を抑制したものと考えられる。
2016年の網本先生の報告において、イヌインターフェロンα製剤の単独投与で9か月間、外用イヌインターフェロンα製剤とオーラルケアの併用で12か月間、歯肉炎指数の進行を抑制し、またイヌインターフェロンα製剤の定期的な追加投与を行うことで、歯肉炎の早期治療や予防を目的とした使用も可能であるとの報告があり、長期間の作用継続も期待されていた。
本検討において、歯科処置後にIBαを使用することにより、12か月間という長期的な期間、口腔内状態を良好に維持することが示唆された。
WSAVAのデンタルガイドラインによると、2歳までに猫の70%、犬の80%が何らかの状態の歯周病を有するが、その割に治療されずに悪化することが多い疾患であると記載されており、動物歯科の分野において、歯科処置後の歯周病再発を予防し、良好な口腔内環境を維持する目的として、外用イヌインターフェロンα製剤が導入しやすい治療剤として1つの選択肢となる可能性がある。