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大動脈弁下狭窄症のネコの1例


第10回目のケースレポートの前に第9回のアンケート結果に対するコメントを竹村 直行先生から頂戴しております!

日本獣医生命科学大学・教授
日本臨床獣医学フォーラム・理事・学術顧問
前回のアンケートのコメント
【設問1】DCMの犬について

 キチンとした統計をとっていませんが、当科では1年に1~2頭は拡張型心筋症のイヌに遭遇します。そしてその大部分が小型犬です。私は一次診療現場でも発生率(というか遭遇率)は同じくらいかなと予想していました。
 5年以内に拡張型心筋症のイヌに遭遇したのは47.0%というのは、私の予想を越えた数字です。
 拡張型心筋症というと心臓の収縮力の低下ばかりが強調されていますが、これに加えて心拡大、特に左心拡大も診断要件です。つまり、収縮力の低下だけで拡張型心筋症と診断できません。収縮力が低下しているものの、左心拡大が伴っていないイヌでは、甲状腺機能低下症を疑って下さい。甲状腺機能低下症では、強心薬は不要です。

【設問2】小型犬種のDCMについて

 今でも拡張型心筋症というと大型犬に多発傾向がある、とされています。しかし、これはこの疾患は小型犬や中型犬よりも大型犬の方が発生傾向が強い、ということであって、小型犬や中型犬は拡張型心筋症に罹患しないということではありません。小型犬であっても、心拡大や心雑音が認められる場合には一度は拡張型心筋症を疑うべきだと思います。
 僧帽弁閉鎖不全症と拡張型心筋症の治療法は基本的には同じです。ですので、この両者の鑑別は不要と思われるかも知れませんが、後者の生命予後は極めて不良なので、やはり両者の鑑別は重要と考えるべきです。

第10回目のケースレポートは日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科の竹村直行先生、宮川寛済先生です。記事の最後に診療トレンドをみるための質問があります。アンケート結果に対する竹村先生のコメントが次回のケースレポートで発表されます!

1.はじめに
 大動脈弁下狭窄症 (SAS)は、先天性心疾患の一つである。SASでは、大動脈弁下部の狭窄によって、左室に圧負荷が生じ左室肥大を引き起こす。左室肥大は左房圧を上昇させ、そして最終的に左心不全を引き起こすことがある [1]。SASの内科療法にはβ遮断薬が一般的に用いられる。これは、β遮断薬の陰性変力作用および陰性変時作用によって、左室および大動脈間の圧較差を低減すること、そして心室の拡張時間を延長させて冠動脈血流量を増加させることを目的としている。いっぽう、SASおよび閉塞性肥大型心筋症といった左室流出路閉塞を伴う症例では、ピモベンダンはこれまで推奨されてこなかった [2]。しかし、Reina-Doresteらは、うっ血徴候を示す肥大型心筋症のネコでは、左室流出路閉塞を合併していてもピモベンダンは生存期間を延長させる可能性があると報告している。今回我々は、SASと診断したネコで、病態の悪化の原因として心収縮能および/または拡張能の低下を疑い、アテノロールからピモベンダンに変更したので報告する。
2.症例の概要および初診時所見
 症例は2歳2ヶ月齢、去勢オスのスコティッシュフォールドである (写真1)。本症例は、当科受診の2週間前に元気および食欲の低下を主訴にかかりつけ医を受診した。この際、採血時に循環不全を疑われ、心エコー図検査を受けたところ、心室中隔壁厚が7.5 mmおよび左室自由壁厚が9.2 mmであり、左室肥大が認められたとのことだった。このため、左室肥大の精査のために当科を受診した。なお、本症例はかかりつけ医で肥大型心筋症と診断され、ピモベンダン (1.25 mg/head, 1日2回)の投与が開始されていた。
当科初診時 (第1病日)、心不全徴候は認められず、ピモベンダンの投与開始後は元気および食欲が改善したとのことだった。

 身体診察では体重は3.75 kgで、ボデイ・コンディション・スコアは3/5だった。心拍数は240 bpmで、左側前胸部よりLevine 5/6の収縮期駆出性雑音が聴取された。呼吸数は36回/分で、肺の副雑音は聴取されなかった。可視粘膜はピンクであり、大腿動脈圧は正常に触知された。水和状態は正常だった。
 胸部X線検査では、椎骨心臓スケール (VHS)は8.3 vと、正常だった (写真2)。肺野および血管系に異常はなかった (写真2, 3)。
 心電図検査中の心拍数は265 bpmで、II誘導でのR波の振幅は1.2 mVと、左室拡大パターンを示していた (図1および2)。

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 オシロメトリック法による血圧測定では、収縮期血圧は129 mmHgだった。
 心エコー図検査 (右側傍胸骨左室長軸像)では、僧帽弁収縮期前方運動 (SAM)が認められ (図3)、カラードプラ法では左房内および左室流出路に収縮期モザイクシグナルが認められた (図4, 動画1)。右側傍胸骨左室短軸像で測定した左房内径/大動脈根内径比 (LA/Ao)は1.64で、そして左房内径は12.3 mmだった (図5)。左室短軸像で評価したMモード法では、拡張期心室中隔壁厚 (IVSd)は4.2 mm、そして左室自由壁厚 (LVPWd)は5.2 mmだった (図6)。左側傍胸骨四腔断面像で測定した僧帽弁逆流 (MR)血流速は4.45 m/秒で (図7)、簡易ベルヌーイ式を用いた推定左房圧は66.8 mmHgだった。左室流入血流速波形であるE波およびA波の流速はそれぞれ0.86および0.72 m/秒で、E/A は1.2だった (図8)。左側傍胸骨五腔断面像では、大動脈弁下部に狭窄が認められ、カラードプラではこの狭窄部より発生する収縮期モザイクシグナルが認められた (動画2)。この狭窄部での血流速は5.18 m/秒だった (図9)。

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動画1
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動画2
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3.治療及び臨床経過
 年齢に加え、以上の各種検査所見に基づき、本症例をSASと診断した。治療としてピモベンダンを中止し、アテノロールに変更することとした。ピモベンダンは1週間かけて漸減し、そして休薬した。アテノロールに関しては、6.25 mg/head, 1日1回で開始し、そして1週間後に6.25 mg/head, 1日2回に増量した。
 第15病日の問診では一般状態は良好で、心不全徴候は認められていないとのことだった。低血圧を示唆する臨床徴候も認められなかった。聴診では心拍数は150 bpmで、そして左側前胸部よりLevine 4/6の収縮期駆出性雑音が聴取された。大腿動脈圧は正常に触知された。収縮期血圧は122 mmHgだった。以上の所見より、アテノロールの有害反応は認められていないと判断し、同じ用量でのアテノロールを継続し、そして半年ごとに定期健診することにした。
 第1471病日まで、一般状態は良好であり、心不全徴候も認められなかった。また、心エコー図パラメータにわずかな変動はあるものの、明らかな心拡大を示唆する所見は認められなかった (表1)。

 第1709病日の問診では、食欲および元気はあり、運動後であっても呼吸困難、虚脱および失神は認められないとのことだった。身体診察では体重は5.00 kgで、ボデイ・コンディション・スコアは4/5だった。聴診では心拍数は150 bpmで、左側前胸部よりLevine 1/6の収縮期駆出性雑音が聴取された。呼吸数は30回/分で、肺の副雑音は聴取されなかった。大腿動脈圧は正常に触知された。胸部X線検査では、VHSは9.6 vだった (写真4)。肺野および血管系に異常はなかった (写真4および5)。収縮期血圧は133 mmHgだった。心エコー図検査 (右側傍胸骨左室長軸像)では左房拡大が認められ (図10)、第1病日と同様、左房内および左室流出路に収縮期モザイクシグナルが認められた (動画3)。右側傍胸骨左室短軸像で測定したLA/Aoは2.39で、左房内径は20.7 mmだった (図11)。右側傍胸骨左室短軸像で評価したMモード法ではIVSdは5.2 mmで、LVPWdは6.9 mmだった (図12)。左側傍胸骨四腔断面像で測定したMR血流速は4.65 m/秒で (図13)、推定左房圧は49.5 mmHgだった。左側傍胸骨五腔断面像で測定した大動脈弁血流速は2.22 m/秒だった (図14)。さらに心嚢水の貯留が認められた (動画4)。もやもやエコー、心腔内血栓および胸水は認められなかった。

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動画3
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動画4
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 重度の左房拡大および心嚢水の貯留が認められたものの、左室肥大は悪化していなかったため、病態の悪化の原因として、SASのみが関与しているとは考えられなかった。さらに、大動脈弁血流速が低下していたため、これらの原因として、左室の収縮能および/または拡張能の低下が疑われた。このため、アテノロールを中止し、そしてピモベンダン (1.25 mg/head, 1日2回)に変更することにした。また、血栓予防療法としてクロピドグレル (25 mg/head, 1日1回)を開始した。
第1723病日の問診では、上述の治療の変更後も食欲および元気は変わらないとのことだった。失神およびふらつきも認められなかった。収縮期血圧は167 mmHgだった。胸部X線検査ではVHSは10.2 vで、肺野および血管系には異常はなかった (写真6および7)。心エコー図検査では、右側傍胸骨左室短軸像で測定したLA/Aoは1.94で、左房内径は20.7 mmだった (図15)。右側傍胸骨左室短軸像で評価したMモード法では、IVSdは6.0 mm、そしてLVPWdは5.9 mmだった (図16)。左側傍胸骨五腔断面像では、大動脈弁血流速は3.26 m/秒だった (図17)。第1709病日と同様、心嚢水が貯留していた (動画5)。

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動画5
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VHSは上昇していたが、左室肥大および左房拡大の程度に変化はなく、そしてピモベンダンによる大動脈および左室間の圧較差の明らかな上昇および低血圧も認められなかった。このため、ピモベンダンおよびクロピドグレルによる治療を継続することにした。
その後、大動脈弁血流速の上昇および左室肥大は認められているが、第2269病日まで左房拡大および心嚢水貯留の悪化は認められていない (表2)。さらに第2269病日の問診でも一般状態は良好であり、そして運動不耐性および呼吸困難といった心不全徴候は認められていない。
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科
本症例の考察

  本症例では、左室肥大の悪化、そして左室および大動脈間の圧較差の上昇が認められていないものの、左房拡大が悪化し、さらに心嚢水が貯留した。SASでは、大動脈弁下部の狭窄によって、左室に圧負荷を生じる。これが左室肥大を引き起こし、左房拡大および左心不全が生じることがある。本症例では、左房拡大の悪化および心嚢水の貯留がSASと直接関連していたと仮定すると、左室肥大は悪化し、そして左室および大動脈間の圧較差は上昇したはずだと考えられる。このため、本症例の左房拡大および心嚢水貯留の原因として、左室の収縮能および/または拡張能の低下を疑い、そしてピモベンダンを開始した。
 SASに類似した病態を示す疾患として、閉塞性肥大型心筋症がある。SASおよび閉塞性肥大型心筋症のように左室流出路が閉塞したネコでは、ピモベンダンは推奨されていない [2]。これは、左室流出路閉塞を伴うネコではピモベンダンによって左室および大動脈間の圧較差が上昇し、そして左室肥大の悪化および低血圧を引き起こす可能性があるからである。しかし、Reina-Doresteらは、うっ血徴候を示す閉塞性肥大型心筋症のネコであっても、ピモベンダンが生存期間の延長に有益な作用を示す可能性があり、同時に十分に耐容性があると報告している [3]。このことは、SASのネコでも同様なのかもしれない。本症例では、ピモベンダンの開始後、左房拡大およびうっ血徴候の悪化は認められていない。また、低血圧も認められなかった。このため、低血圧および左室肥大の悪化の有無を十分に注意してモニタリングする必要があるが、本症例のように左室流出路閉塞を示すネコであってもピモベンダンは安全に使用できると考えられる。

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引用文献
[1] Beijerink, N. J., et al. (2017): Congenital heart disease. In: Text of Veterinary Internal Medicine. 8th edn. Eds Ettinger, S. J., Feldman, E. C. & Côté, E. Elsevier, St. Louis, MO, USA, pp 1207–1248.
[2] Luis Fuentes, V., et al. (2020): ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med., 34, 1062–1077.
[3] Reina-Doreste, Y., et al. (2014): Case-control study of the effects of pimobendan on survival time in cats with hypertrophic cardiomyopathy and congestive heart failure. J Am Vet Med Assoc., 245, 534–539.

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