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記事の最後に米国獣医救急集中専門医である上田悠先生から解説コメントをいただいております。ぜひご覧ください!
心室頻脈性不整脈の犬に対する硫酸マグネシウムの静脈内投与の有用性についてアメリカのAmber B. Schoeller氏らは、16頭の犬を用いてプロスペクティブに研究を行った。その結果、硫酸マグネシウムの静脈内投与は心拍数および心室性期外収縮を減少させることが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Emergency and Critical Care 2020年11、12月号に掲載された。
研究の背景
低マグネシウム血症は上室性および心室性頻拍、心房性および心室性期外収縮、心房性および心室性細動と関連することが知られている。また、硫酸マグネシウムの静脈内投与は低マグネシウム血症がなくても正常な伝導および細胞膜の安定化をもたらすとされている。ヒトにおいては、マグネシウムは心室性不整脈の発生を減らす第一選択薬および補助的な抗不整脈薬として使用されている。一方、イヌでは硫酸マグネシウムの有効性に関する研究は著者らが知る限りは報告されていない。そこで著者らは、心室頻脈性不整脈を呈する犬を用いて、硫酸マグネシウムの静脈内投与の有効性を評価することを計画した。
本研究には2003年10月から2011年8月までにICUに入院した心室頻脈性不整脈の犬をプロスペクティブに組み入れした。組み入れ条件は心室拍数>180bpmの持続性または発作性心室性頻拍を呈する犬、もしくは単一または多形の心室複合体が60回/分を超えて認められる犬とした。
記録および治療
組み入れられた犬は、心室頻脈性不整脈が認められた時点(T1)で採血をし、血漿カリウム濃度、イオン化カルシウム濃度、イオン化マグネシウム濃度を測定した。また、第Ⅱ誘導で心電図を記録した。
その後、硫酸マグネシウム(50%、マグネシウム49.3g/mL配合)を0.9%の塩化ナトリウムで希釈し12.5%の溶液(0.5mmol/mL)を作成し、0.1mmol/kgで5分間かけて静脈内投与した。
硫酸マグネシウム投与終了5分後(T2)、再度血漿カリウム濃度、イオン化カルシウム濃度、イオン化マグネシウム濃度を測定した。また、第Ⅱ誘導で心電図を記録した。
評価
T1およびT2の時点における心拍数、上室性拍数(洞拍動)、心室異所性拍数(心室性期外収縮の1分間あたりの数)、カリウム濃度、イオン化カルシウム濃度、イオン化マグネシウム濃度を比較した。
本研究には16頭の犬が組み入れられた。年齢中央値は9.8歳、体重中央値は32.6kgであった。心室頻脈性不整脈の原因は、脾臓腫瘤摘出、肝臓腫瘤摘出、腸捻転を伴う胃拡張、拡張型心筋症などであった。
16頭中10頭で心室拍数>180bpmの持続性または発作性心室性頻拍を呈しており、全頭で単一または多形の心室複合体が60回/分を超えて認められた。
治療前後の心拍
治療前後の心拍数、上室性拍数(洞拍動)、心室異所性拍数は下グラフのとおり。
心拍数ならびに心室異所性拍数は有意に低下し、上室性拍数は有意に増加した。
投与したうちの2頭では洞調律に戻ったが、洞調律を維持することはできなかった。
血漿電解質濃度
電解質濃度は下表のとおり。
カリウム濃度およびイオン化カルシウム濃度はT1とT2で有意差は認められなかったが、イオン化マグネシウム濃度はT1と比べて硫酸マグネシウム投与後のT2では有意に上昇していた。
項目 単位 T1 T2 P値
カリウム濃度 mmol/L 3.08 3.17 P=0.31
イオン化カルシウム濃度 mmol/L 1.15 1.23 P=0.57
イオン化マグネシウム濃度 mmol/L 0.45 0.76 P=0.0003
結論
これらの結果から著者らは、心室頻脈性不整脈の犬に対して硫酸マグネシウム0.1mmol/kgの静脈内投与は心拍数ならびに心室拍動数を減少させることが明らかになったと報告している。一方でこれらの症例で洞調律を維持できなかったことや抗不整脈薬の追加投与が必要であったことから、調査した投与量が心室頻脈性不整脈の犬に対する第一選択となるかは結論付けることはできなかったと述べている。
心室頻脈性不整脈を呈した犬に対する硫酸(または塩化)マグネシウムの投与は、私も普段から実施しています。また私以外の救急集中治療専門医や循環器内科専門医も、実際に使用している先生がアメリカでは多いです。私の経験としては効果はある程度あると感じていますが、しっかりとしたエビデンスは少ないので、さらなる臨床研究が必要だと感じています。
心室頻拍性不整脈を呈している症例に対して、硫酸(または塩化)マグネシウムを投与する場合は、基本的に他の抗不整脈(例:リドカイン)と同時に投与します。ですので、本論文で実施されたような、抗不整脈の第一選択薬として使用することは基本的にはありません(例外:重度低マグネシウム血症が心室頻脈の原因であると考えられる症例)。
また、マグネシウム製剤を急速投与することで低血圧を引き起こす可能性があるので、本論文でもあったように5分以上かけて静脈内投与します。また、房室ブロックや脚ブロックといった不整脈を逆に引き起こしてしまう可能性もあることに注意して下さい。
最後に硫酸マグネシウムはカルシウム濃度を低下してしまう可能性があるので、できれば投与前にカルシウム濃度や他の電解質濃度のチェックはできれば実施したほうがいいと思います。
- Highlights
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心室頻脈性不整脈の犬16頭を用いて、硫酸マグネシウムの効果をプロスペクティブに研究
硫酸マグネシウムの静脈内投与後の心拍数、心室異所性拍数を評価
投与後に有意に心拍数、心室異所性拍数が低下
上室性拍数(洞拍動)は有意に増加
洞調律を維持することはできなかった
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/vec.13004
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。