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ステージB2のMMVDの犬をレントゲン検査だけで判断する方法とは?


記事の最後に本論文の著者である竹村直行先生からの解説コメントがございます。ぜひご覧ください!
また、診療トレンドをみるための質問があります。宜しければご協力ください!

ACVIMステージB2の僧帽弁粘液腫様変性疾患(MMVD)の犬を診断するための胸部X線検査における椎骨左房サイズ(VLAS)の有用性について、日本のS. Mikawa, N. Takemura氏らは、97頭の犬を用いてレトロスペクティブに調査を実施した。その結果、VLASのカットオフ値を2.6としたときに最も正確にステージB2の診断ができることが明らかになった(詳細は後述)。結果はJournal of Veterinary Cardiology 2020年8月号に掲載された。

研究の背景

MMVDは中年齢~高齢の小型犬で最も多く認められる心疾患であり、過去の研究ではACVIMステージB2(うっ血性心不全の徴候無し、左房拡大あり)の犬でピモベンダンを投与することでうっ血性心不全(CHF)発症までの期間が延長できることが報告されている。ステージB2の判断には心雑音≧3/6、X線検査(VHS>10.5)、心エコー検査(LA/Ao≧1.6かつLVIDDN≧1.7)が必要となるが、心エコー検査が実施できない場合にはVHS≧11.5ないし継続的な心拡大が認められる場合にステージB2とすることができるとされている。近年、MMVDの犬における左心房拡大の検出にVLASが有用であることが報告されている。そこで著者らは、VLASを用いてACVIMのステージB1とB2の鑑別ができるかどうか評価することを計画した。

VLASを用いてMMVDの犬をステージB1とB2に判別できるカットオフ値を評価

本研究には、2012年1月から2018年8月までに来院したMMVDの犬を組み入れた。組み入れられた犬をACVIMステージB1、B2、C-Dに分類した。なお、ACVIMステージB2の診断基準はACVIMのガイドラインに準じて心雑音≧3/6、VHS>10.5、LA/Ao≧1.6、LVIDDN≧1.7を全て満たすものとした。
心エコー検査
LA/Aoは右傍胸骨短軸像のBモードで、LVIDDNは右傍胸骨短軸像のMモードで測定した。
胸部X線検査
エコー検査結果を知らない獣医師が組み入れられた犬のVHSおよびVLASを測定した。VLASの測定方法は下図のとおり。
【VLASの測定方法】
1.側面像の胸部X線写真を撮影
2.気管分岐部の最も腹側縁の中央部から左心房の最も尾側面までを測定
 ・後大静脈 (#) の背側縁との交点
3.この長さが第4胸椎頭側縁 (*) から胸骨何個分に相当するか測定
 ・小数点第1位まで

画像:竹村直行先生ご提供
評価
Spearmanの順位相関係数(r)を計算してVLASと心エコーパラメーターとの関連性を評価した。また、受信者動作特性曲線からステージB1とB2の犬を判別するための最適なVLASのカットオフ値と感度、特異度を算出した。

ステージB2検出の最適なVLASカットオフ値は2.6(感度95%、特異度84%)

本研究には97頭の犬が組み入れられた(ステージB1:64頭、B2:19頭、C-D:14頭)。各ステージごとのVLASは下グラフのとおり。

相関関係
VLASはLA/Ao(r=0.68, P<0.001)、LVIDDN(r=0.61, p<0.001)と有意に正の相関関係にあった。
ステージB1とB2の判別
受信者動作曲線からステージBの犬83頭をVLASでステージB1とB2に判別するためのカットオフ値とその時の感度・特異度は下表のとおり。

VLASカットオフ値感度特異度Youden Index
2.5100%78%78
2.695%84%79
2.784%88%72
2.884%91%75
2.979%94%73
3.063%97%60
3.147%100%47
※Youden Index:感度-(特異度-1)が最大となるときの値を最適なカットオフ値とした
最も感度の高いカットオフ値はVLASが2.5、特異度の高いカットオフ値はVLASが3.1、最適なカットオフ値はVLASが2.6の時であった
ACVIMステージB1、B2の犬におけるVLASの分布は下グラフのとおり。

結論
これらの結果から著者らは、VLASは左心拡大の特定やステージB1とB2の鑑別に有用であることが明らかになったと報告している。VLASのカットオフ値を2.5とした場合には、さらに心臓病の評価のために心エコー検査を必要とする目安として使うことができ、3.1とした場合には、心エコー検査が実施できない場合にB2と判断するのに有用であるだろうと述べている。

Highlights
ステージB1~DのMMVDの犬97頭を組み入れ
VLASを用いてMMVDの犬をステージB1とB2に判別できるカットオフ値を評価
ステージB2検出の最適なVLASカットオフ値は2.6(感度95%、特異度84%)
ステージB2検出の感度が最大となるVLASカットオフ値は2.5(感度100%、特異度78%)
ステージB2検出の特異度が最大となるVLASカットオフ値は3.1(感度47%、特異度100%)

論文情報:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1760273420300576
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。

日本獣医生命科学大学・教授
日本臨床獣医学フォーラム・理事・学術顧問
本論文のポイント

 本文にもあるように僧帽弁閉鎖不全症のイヌが、①心雑音の音量が3/6以上、②VHS>10.5、そして③LA/Ao≧1.6かつLVIDDN≧1.7の全てを満たした場合、「EPICリモデリングを来した」と言われる。これはEPIC試験というACVIMステージB2のイヌを対象に行われた臨床試験の組み込み基準の一つでもあった。そして、この試験により、例えうっ血性心不全の既往がなくても、EPICリモデリングを来した症例では、ピモベンダンは心不全発症までの日数、あるいは心臓関連死するまでの日数を有意に延長させることが確認された。
 アメリカでは心エコー図検査の費用が極めて高く、EPICリモデリングの有無の評価が躊躇われることが多い。我が国の動物医療ではこのような懸念は不要だろうが、それでもLA/AoにしてもLVIDDNにしても誤差なく測定することは、必ずしも容易とは言えない。
 この状況を鑑みると、「心エコー図検査を用いずに、例えば胸部X線写真などに基づいてEPICリモデリングの有無をそれなりの信頼性をもって判定できないか?」という発想が生じるのは当然のことと言えよう。
 我々が着目したのは、最近になってイヌの胸部X線写真で測定されるVLASである。VLASは2018年に報じられた新しい指標で、これまでに測定者間および測定者内変動が小さいこと、ACVIMステージB2以降で急上昇することに加え、この論文が報じているようにEPICリモデリングを信頼性をもって検出できることが判っている。
 LA/AoやLVIDDNと異なり、VLASはどの施設でも気軽に、かつ正確に測定できる。無論、EPICリモデリングの有無を判断するために使用できるが、加えて左房サイズのモニタにも使用できる。私の診療科でもVLASをルーティンに測定するようになって約1年半が過ぎた。現在ではVHSとならんでVLASは「必ず測定すべき指標の一つ」である。
 経験的には、EPICリモデリングを来したイヌは運動耐性が低下していることが実に多い。イヌの家族はその症例と毎日接しているが故に、徐々に低下する運動耐性に気づいていないことが多い。このような場合、入念な問診を実施しても運動耐性の低下を確認できないことがたびたびある。問診では無徴候と思われても、VLASが2.6以上のイヌではピモベンダンの試験的投与を家族に提案することは良いことだと思われる。1週間ほど投与し、投与前後で運動耐性が改善したことを家族が実感できたのなら、改めてこの薬剤の持続投与を提案すると、ピモベンダンの必要性を家族は十分に理解できることが多いからである。

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