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犬の主要な歯周病原細菌であるポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対するクリンダマイシンとインターフェロンαの併用による効果について日本のRyota Nomura氏らは52頭の犬を用いて臨床試験を実施した。その結果、クリンダマイシンとインターフェロンαの併用は治療前後で歯周スコアが有意に改善し、約4割の犬でP. gulaeが消失、特に最も毒性が高く重度歯周病のリスク因子と考えられるfimA TypeCの遺伝子発現を低下させることが明らかになった。結果はネイチャー・リサーチ社によって刊行されているオープンアクセスの学術雑誌であるScientific Reports 2020年2月に掲載された。
研究の背景
歯周病は犬に非常に多く認められる感染症で、歯肉溝における細菌増殖によるバイオフィルムの形成によって引き起こされる。歯周病原細菌の中でもP. gulaeは犬の歯周病に最も関連する細菌であると考えられている。P. gulaeの線毛の主要構成タンパクの1つであるフィンブリリン(FimA)の遺伝子型の中でもfimA TypeCは重度の歯周炎を有する犬で多く認められ、最も毒性があると考えられている。抗菌薬は病原性細菌の数を減らすことを目的に使用されるが、P. gulaeに対する有効性という観点で評価されたことはこれまでにない。また、イヌインターフェロンα(IFN-α)は歯肉炎での症状改善は報告されているが、歯周病治療における有効性は十分に研究されていない。そこで著者らは犬の歯周病治療でよく使用されるクリンダマイシンとIFN-αの有用性を評価することを計画した。
本研究は52頭の犬(年齢中央値10歳)を対象にプロスペクティブに研究を行った。対象とした犬は全て全身麻酔下で歯周病治療(スケーリング)を受けた。なお、52頭を以下の4つの群に群分けした。
・無治療群(N=12):投薬無し
・クリンダマイシン群(N=10):スケーリング4日前から3日後までの計7日間、クリンダマイシン 5mg/kg BIDを経口投与
・IFN-α群(N=14):全歯の歯肉に1頭あたりイヌIFN-α 0.275g/回をスケーリング後35日間にわたって10回塗布
・クリンダマイシン+IFN-α群(N=16):クリンダマイシンおよびIFN-αの両方の治療を実施
歯周スコア
歯周スコアは上顎左右の犬歯、第4前臼歯の歯肉炎をスケーリング数日前および5週間後に以下の基準に基づいて評価した。
① 歯周病所見なし
② 軽度の歯周病:歯肉腫脹、歯肉退縮、口臭
③ 中等度の歯周疾患:歯根露出、自然出血、および歯の喪失
④ 重度の歯周疾患:歯根分岐部病変と瘻孔形成
P. gulaeならびにfimA遺伝子型の検出
PCR分析によってP. gulaeならびにfimA遺伝子型(A, B, C)を検出した。
歯周スコア
スケーリング後(5週間後)は全ての犬においてスケーリング前と比べて歯周スコアが有意に低かった。
なお、群間での有意差は認められなかったが、治療前の歯周スコアをベースとしたときの歯周スコア比率はクリンダマイシン+IFN-α群が最も低かった。
P. gulaeの検出
各群のP. gulaeの治療前後の陽性率は下表のとおり。
クリンダマイシンとIFN-α併用群では37.5%の犬でP. gulaeが口腔から消失していた。
群 スケーリング前 スケーリング5週後
無治療群 100% 100%
クリンダマイシン群 100% 80%
IFN-α群 100% 71.4%
クリンダマイシン+IFN-α群 100% 62.5%
fimA遺伝子型
治療前に対する治療後のP. gulaeのfimA遺伝子型検出率は下グラフのとおり。
最も毒性が強いとされるfimA TypeCについては、クリンダマイシンとIFN-αを併用した際に最も低下した。
結論
これらの結果から著者らは、クリンダマイシンとIFN-αの併用がP. gulaeを最も減少させ、中でも重度歯周病のリスク因子と考えられるfimA TypeCの発現を減少させることが明らかになったと報告している。このことは、P. gulaeの病原性を阻害していることを示しており、歯周病予防に有効であることを示唆していると述べている。
- Highlights
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52頭の犬を用いてクリンダマイシン、IFN-αの歯周病予防有効性を評価
歯周スケール、P. gulaeならびにfimA遺伝子タイプを評価
クリンダマイシンとIFN-αの併用で約4割の犬でP. gulaeが消失
クリンダマイシンとIFN-αの併用で特に病原性の高いfimA TypeCの発現が低下
歯周病は“Silent disease”と称されるほど、ひどくなるまで自覚症状が少ない疾患で、気がついた時には重症化してものが噛めなくなったり歯が抜け落ちたりすることもあります。犬ははっきりとした意思表示をすることが難しいため、獣医師の先生方や飼い主の皆さまが口腔内の良い環境を作ってあげることが特に大切かと思います。健康な歯周状態を維持するためには、継続的なオーラルケアが不可欠ですが、一歩進んだ歯周病予防法としてクリンダマイシンとインターフェロンαの併用をおすすめいたします。
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論文情報:https://www.nature.com/articles/s41598-020-59730-9
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。