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記事の最後に本論文の共同執筆者でもある宮川優一先生の解説コメントがございます。ぜひご覧ください。
犬における線維芽細胞成長因子-23(FGF-23)濃度と慢性腎臓病(CKD)の重症度および骨ミネラル代謝異常との関連性について、日本のH. Miyakawa, Y. Miyagawa氏らは15頭の健常犬および75頭のCKD犬を用いてレトロスペクティブに調査を実施した。その結果、FGF-23濃度はIRISステージ2, 3, 4のCKDの犬で健常犬およびステージ1の犬よりも有意に高く、重症度に相関すること、ならびにステージ2の犬の約4頭に3頭がFGF-23の基準範囲を超えて上昇していることが明らかになった。結果はJournal of Small Animal Practice 2020年12月号に掲載された。
研究の背景
CKDは犬に多く認められる疾患であり、CKDでは腎機能低下に伴い高リン血症や上皮小体ホルモン(PTH)の過剰分泌およびカルシトリオール合成の低下に伴うミネラル代謝異常が生じる。ミネラル代謝異常はCKDの予後不良因子であり、重要な合併症と考えられている。FGF-23は血中のリン濃度ならびにカルシトリオール濃度の増加に反応して骨細胞から放出され、腎臓におけるナトリウム-リン共輸送体の発言を低下させることで尿中からのリン排泄を増加させる。つまり、CKD患者においてGFR低下に起因するリンの蓄積に反応してFGF-23は上昇し、血中リン濃度を維持しようとする。実際、ヒトおよび猫ではCKDの進行とともに増加すること、予後不良因子であることが報告されている。そこで著者らは、CKDの犬を用いてFGF-23濃度とCKDの重症度との関連性ならびに他のリン代謝マーカーと比較することを計画した。
本研究には2014年10月から2019年9月の間に来院し、CKDと診断された犬をレトロスペクティブに組み入れした。組み入れられたCKDの犬は2019年のIRISのガイドラインに準じてステージ1~4に分類された。
ステージ | クレアチニン値 |
---|---|
ステージ1 | <1.4mg/dL |
ステージ2 | 1.4-2.0mg/dL |
ステージ3 | 2.1-5.0mg/dL |
ステージ4 | >5.0mg/dL |
また、同時期に来院した臨床的に健常な犬を対照群として組み入れられた。
データ収集
組み入れられた犬の血液生化学検査、血液ガス分析、尿検査、血圧ならびに治療に関するデータを収集した。(対照群については血液ガス分析並びに血圧に関する情報は収集できなかった。)
FGF-23の測定
-30℃で保存された血清サンプルを用いて、FGF-23ならびにPTH濃度の測定を富士フィルムVETシステムズ(株)にて実施した。
評価
FGF-23濃度とCKDのステージとの関連性、高リン血症とFGF-23との関連性ならびにFGF-23と有意に関連した変数を多変量分析にて評価を行った。
本研究には75頭のCKDの犬(ステージ1:25頭、2:26頭、3:16頭、4:8頭)と15頭の健常犬(対照群)が組み入れられた。
CKD犬と対照群とのFGF-23濃度、リン代謝マーカーの比較
CKDの犬と対照群の犬のFGF-23、PTH、血清リン濃度は下グラフのとおり。
IRISステージ2, 3, 4のCKDの犬で健常犬およびステージ1の犬よりも有意に高かった。
一方PTH濃度は、ステージ2, 3, 4のCKDの犬で健常犬よりも有意に高かったが、ステージ1とステージ2のCKDの犬とで有意差は認められなかった。また、血清リン濃度はステージ4の犬で健常犬よりも有意に高かったが、ステージ1と2および2と3の間で有意差は認められなかった。
FGF-23濃度、リン代謝マーカーで高値が認められた割合
FGF-23濃度、PTH、血清リン濃度で各ステージごとに参考基準値上限を超えていた個体の割合は下グラフのとおり。
ステージ2の犬において、FGF-23は約4頭に3頭で高値であった。
結論
これらの結果から著者らは、血清FGF-23濃度が慢性腎臓病-骨ミネラル代謝異常の早期マーカーとして使用可能であることが明らかになったと報告している。今後、FGF-23とCKDの予後との関連性を調べることにより、高リン血症のないCKD犬におけるFGF-23上昇の臨床定期意義を評価することが必要であると述べている。
- Highlights
-
CKDの犬75頭と健常犬15頭を用いてFGF-23濃度を測定
FGF-23濃度とCKDの重症度との関連性の評価ならびに他のリン代謝マーカーとを比較
FGF-23はステージ2, 3, 4の犬で健常犬およびステージ1の犬と比べて有意に上昇
ステージ2の犬におけるFGF-23濃度が参考基準値上限を超えていた犬は73.1%
獣医内科学研究室第二 講師
慢性腎臓病(CKD)での重要な合併症の一つにリン・カルシウム代謝異常がある。多くの研究でリンの高値はCKD症例の予後の悪化と関連することが知られており、リン・カルシウム代謝異常の管理は非常に重要になっている。しかし、リンの上昇はCKDの後期で認められるために、血清リン濃度はリン・カルシウム代謝異常の早期に検出には向いていない。パラソルモン(PTH)は血清リン濃度よりも早期から上昇することが知られているが、多くの症例でCKDのステージ3から上昇する。人では、線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)は、CKDのより早期から上昇するホルモンとして知られており、犬および猫でもその意義が明らかになりつつある。FGF-23はリン・カルシウム代謝に関わるもう一つのホルモンである。
FGF-23は、腎臓の近位尿細管に発言するナトリウム-リン共輸送体の発現を低下させることで、リンの再吸収を阻害し、血清リン濃度を低下させるリン利尿ホルモンである。また、25(OH)D-1α水酸化酵素の発現を抑制し、1,25(OH)2D濃度を低下させるように働く。PTHよりも早期にリン・カルシウム代謝異常を捉えることができれば、FGF-23はCKDの進行、予後評価のみならず、治療対象となると思われる。現在ステージ2からの腎臓病用療法食の開始が推奨されているが、低蛋白・低リン食であることが早期の症例に対して、有害であることがある(筋肉量の低下、低リン血症の発現)。そのため、リン制限、リン吸着剤の使用を適切に考慮する必要がある。猫では、腎臓病用療法食の使用は血清FGF-23濃度を減少させることが報告されており、高リン血症でない症例でもこれは認められている。早期のCKDでのFGF-23の評価は、食事療法またはリン吸着剤の使用開始時期を決定する可能性がある。
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jsap.13244
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。