期間限定!
記事の最後にTRVA夜間救急動物医療センターの中村篤史先生から本論文に関するコメントがございます。ぜひご覧ください!
また、中村先生のコメントの下に設置してありますアンケートにお答えいただくとAmazonギフト券500円分を50名様にプレゼント致します!
呼吸困難で来院した猫の原因が心臓性か非心臓性かを鑑別する際の心エコー(FOCUS: Focused cardiac ultrasound)およびNT-pro BNPの有用性についてアメリカのCassandra Ostroski Janson氏らは、37頭の猫を用いてプロスペクティブに研究を行った。その結果、NT-pro BNPの測定は心臓性・非心臓性の鑑別において、一致率(精度)94.1%と非常に高く、FOCUSと同等であることが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Emergency and Critical Care 2020年7、8月号に掲載された。
研究の背景
呼吸困難は救急外来で多く認められる症状であり、心疾患または呼吸器疾患に起因することが多い。胸部X線検査や心エコー検査はこれらの鑑別のために用いられる検査であるが、重度の呼吸困難のためにこれらの検査を安全に実施できないことがある。そのため、迅速にポイントを絞って評価する心エコー(FOCUS)やNT-pro BNPの測定が簡易かつ迅速な診断方法として注目されている。しかしながら、これらはいずれも呼吸困難を呈する猫で評価した研究はこれまでにない。そこで著者らは呼吸困難の猫を用いてこれらの検査が心臓性か非心臓性かの鑑別に有用かどうか、精度を評価することを計画した。
本研究には2014年6月から2016年2月までに救急搬送された呼吸困難の猫をプロスペクティブに組み入れした。救急医が病歴と身体検査(心拍数、肺音、呼吸数呼吸様式、心雑音の有無など)を実施した。これらの所見から心臓性か非心臓性かの仮診断を行った。
FOCUS
仮診断後、1時間以内にFOCUS検査を実施した。FOCUS検査は右傍胸骨短軸像にてLA:Aoの測定並びに右心、左心拡大と胸水貯留の有無を評価した。FOCUS実施後、心臓性か非心臓性かの診断を行った。
NT-pro BNP
FOCUS検査後にNT-pro BNPの測定のために静脈穿刺を行った。NT-pro BNPの測定はスナップ・pro BNP(猫)を用いて行った。結果は高値(陽性とみなす)ないし正常(陰性とみなす)のいずれかで判定した。
評価
来院後3時間以内に胸部X線検査を実施し、24時間以内に循環器専門医により心エコー検査を実施した。すべての検査結果から循環器専門医と救急専門医の合意によって最終的な診断を行った。仮診断ならびにFOCUS後の診断、NT-pro BNPの結果と最終診断の一致率を以下のように評価した。
・陽性一致率:最終診断が心臓病であった症例に対する一致率
・陰性一致率:最終診断が非心臓病であった症例に対する一致率
・全体の一致率:全症例に対する一致率
本研究には37頭の猫が組み入れられた。そのうち、16頭が非心臓性、21頭が心臓性の原因による呼吸困難と最終的に診断された。それぞれのプロフィール身体検査所見などは下表のとおり。
項目 | 非心臓性 | 心臓性 |
---|---|---|
年齢 | 9.3歳 | 9.7歳 |
体重 | 4.6kg | 4.8kg |
心雑音(有/無) | 4/12 | 12/8 |
心拍数 | 191bpm | 191bpm |
呼吸数 | 65回/分 | 62回/分 |
FOCUSで得られたLA/AoならびにNT-pro BNPは下グラフのとおり。
非心臓性の猫と比べて、FOCUS検査でのLA/Aoは心臓性の猫で有意に高く、スナップ・pro BNPも心臓性の猫で有意に陽性が多かった。
診断精度
FOCUS実施前の仮診断、Focus実施後の診断、NT-pro BNPの陽性一致率、陰性一致率、全体の一致率は下表のとおり。
FOCUS実施後の診断では実施前の仮診断と比べていずれも有意に一致率が上昇した。また、FOCUSの中でもLA/Ao≧1.5をカットオフとしたときの陽性一致率は95%、陰性一致率は87.5%であり、心臓性の呼吸困難の強い予測因子であった。なお、NT-pro BNPで陽性を示したが、非心臓性の呼吸困難であった猫のうち、2頭については実際に心疾患があったがうっ血性心不全ではなかった。
項目 陽性一致率 陰性一致率 全体の一致率
FOCUS実施前
(仮診断)76.2% 68.8% 73.0%
FOCUS実施後 95.2% 87.5% 91.9%
SNAP pro BNP(陽性) 100% 86.7% 94.1%
結論
これらの結果から著者らは、FOCUS、NT-pro BNPはいずれも猫の呼吸困難の原因が心臓性か非心臓性かを鑑別するのに迅速に実施できる検査であることが明らかになったと報告している。これらの検査は呼吸困難で緊急搬送された猫に対して適切な初期治療を実施するうえで有用であろうと述べている。
- Highlights
-
呼吸困難で救急搬送された猫37頭を用いて、プロスペクティブに研究を実施
心臓性か非心臓性かの鑑別にFOCUSならびにNT-pro BNPが有用か評価
FOCUS検査実施後の全体の一致率は91.9%
スナップ・pro BNPを用いた全体の一致率は94.1%
FOCUS、NT-pro BNPともに救急における心臓性・非心臓性の呼吸困難の鑑別に有用
JaVECCS 理事長
呼吸困難は、私が所属する救急診療施設でもよく遭遇し、重症度の高い病態の一つである。重篤な呼吸困難症例は、無理な姿勢や処置にて急変することもあるため診断や治療のために与えるストレスは避けなければならない。猫の呼吸困難を引き起こす代表的な疾患には、心筋症に伴う心原性肺水腫や胸水貯留、肺炎や猫喘息などが挙げられる。いずれも重篤な呼吸器症状を示すものの、レントゲンでの診断は犬のそれと比較し鑑別が困難であることが多い。また、心不全であれば早期の積極的な減圧処置(利尿薬や血管拡張薬の投与)へと治療の舵を切らなければならないことから、心疾患由来での呼吸困難であるか否かの鑑別は、救命という観点で重要となる。
今回の報告は、猫の呼吸困難症例に対して、ポイントを絞って評価する心エコー検査(FOCUS)やNT-proBNPを測定することで、心原性か非心原性かを鑑別できるか否かが論点であった。結論は、FOCUSおよびNT-proBNPともに最終診断との高い陽性および陰性一致率を示し、その有用性が示された。
以前より我々の施設でも、猫の呼吸困難症例が来院した際、身体検査と同時に、腹臥位での肺および簡易的な心臓の形態評価を実施し、心原性か否かの治療判断を行なっている。しかしながら、私を含め、心臓エコー検査が苦手な獣医師にとっては、La/Ao比のみであったとしても、腹臥位体勢で正確な画像を得るのは、技術的なハードルが高いのではないかと思われる。そこで、NT-proBNPを測定してみてはどうか?ということである。心原性と非心原性を血液サンプルのみで鑑別できることは、心エコーやレントゲン読影といった個人の技術に依存しないという点でメリットは大きい。さらに、今回の研究のポイントは、検査センターへ依頼する定量測定ではなく、ベットサイドで診断可能な検査キットを使用しているところである。検査キットでの判定は、視覚的な誤差や腎疾患などによるNT-proBNPの排泄障害を伴った場合、判断に悩むこともあるため、その点において今後さらなる情報の蓄積が必要と思われる。
アンケートにお答えいただくと抽選で50名様にAmazonギフト券500円分プレゼント!
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/vec.12957
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。
こちらのコンテンツはアイデックスラボラトリーズ株式会社の協賛でお送りしております。