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変形性関節症(OA)の猫における抗神経成長因子(NGF)抗体フルネベトマブの有効性について、アメリカのMargaret E. Gruen氏らはOAの猫275頭を用いて研究を実施した。その結果、プラセボと比較してフルネベトマブ投与群で飼い主評価、獣医師評価共に有意な改善が認められることが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2021年11月、12月号に掲載された。
研究の背景
変形性関節症(OA)は猫に非常に多く認められる疾患で、猫全体の61%~93%がX線検査でOAを有していることが報告されている。また、X線検査上OAを持つ猫の約40%で疼痛に関連する臨床症状を有することも報告されている。猫のOAに関連する疼痛にはNSAIDsが承認されているが、毎日経口投与することの飼い主の負担が問題となっている。
神経成長因子(NGF)はOAの疼痛における侵害受容器の感作で重要な役割を担っており、そのモノクローナル抗体である抗NGF抗体はOAの新規治療として期待されている。そこで著者らはOAの猫を用いて抗NGF抗体であるフルネベトマブの皮下投与の有効性を評価することを計画した。
本研究には、OAで来院した猫をプロスペクティブに組み入れし、多施設共同、無作為二重盲検、プラセボ対照試験で実施した。組み入れ条件は生後6か月以上、体重2.5kg以上の猫でOAの臨床症状があり、少なくとも2関節以上にX線検査によるOAの所見が認められることとした。また、慢性疾患(慢性腎臓病を含む)が安定している猫も組み入れ対象とした。
プロトコール
組み入れられた猫を以下の二群に分けた。
・フルネベトマブ群:7mg/mLのフルネベトマブを2.5kg~7kgの猫には1mL、7kg~14kgの猫には2mLを皮下注射
・プラセボ群:フルネベトマブが入っていない液体を同量で皮下注射
上記で初回投与時(Day0)、28日後(Day28)、56日後(Day56)に投与を行った。
有効性評価
有効性の評価はCSOM(Client Specific Outcome Measures)を用いて実施し、Day56の時点の治療成功率を主要エンドポイントとした。また、二次エンドポイントはDay28とDay84の治療成功率、Day28, 56, 84の飼い主評価、獣医師による整形外科評価とした。
CSOM
獣医師と協力し、個々の猫に合わせて、猫が行うことが困難な活動を3つ選択し、それぞれ1:問題なし~5:不可能の5段階で評価を行い、合計値(3~15)を算出した。Day0と比較してスコアが2以上減少した場合を治療成功とし、Day28, 56, 84の成功率を算出した。
飼い主評価
Day28, 56, 84の時点で飼い主は猫のOAの臨床症状に対して治療が成功したかどうかについて総合評価を「優れていた」、「良好」、「まずまず」、「不良」の4段階で評価した。
獣医師整形外科評価
評価 基準
優れていた OAの臨床症状が消失、あるいは気にならない程度まで改善
良好 OAの臨床症状が50%以上改善
まずまず OAの臨床症状が50%未満改善
不良 OAの臨床症状は治療によって影響無し
獣医師による整形外科評価はスクリーニング時(ベースライン)、Day28, 56, 84で実施した。整形外科評価はノースカロライナ州立大学の関節評価とスコアリングに従って痛み、関節の摩擦音、浸出液、肥厚の4点に対してそれぞれ行った。
安全性評価
各時点での身体診察、注射部位の評価、Day84の臨床病理検査、および飼い主からの有害事象報告に基づいて実施した。
本研究には275頭のOAの猫が組み入れられた。このうち93頭がプラセボ群に、182頭がフルネベトマブ群に振り分けられた。なお、二群間で年齢、体重、性別などに有意な差は認められなかった。組み入れられた275頭の猫のうち、主要評価の56日目の時点で試験から13頭(プラセボ群6頭、フルネベトマブ群7頭)が除外された。
CSOM
Day0の時点でのCSOMに二群間で有意差は認められなかった。主要エンドポイントであるDay56の時点と二次エンドポイントのDay28, 84の時点での治療成功率は下グラフのとおり。主要エンドポイントの時点でフルネベトマブ群で有意に成功率が高かった。
飼い主評価
飼い主による総合評価はDay28, 56の時点でプラセボ群と比較してフルネベトマブ群で有意に高かった。Day56の評価結果は下グラフのとおり。
獣医師評価
獣医師整形外科評価における疼痛スコアについて、ベースラインからの改善度合いを二群間で比較した結果は下グラフのとおり。
Day56, 84の時点でフルネベトマブ群で有意に改善が認められた。
安全性評価
報告された有害事象の大半は治療との関連性が低いと分類された。嘔吐や下痢を含む消化管障害が最も多く報告されたが、両群で同様の報告割合であった。ただし、皮膚障害のみ発生頻度がフルネベトマブ群で有意に高かった。
結論
これらの結果から著者らは、OAによる疼痛と運動機能障害を有する猫に抗NGF抗体であるフルネベトマブを月1回、3か月間投与したところ、ベースラインから84日目まで良好な治療効果が認められたと報告している。フルネベトマブは長期間の有効性を有する注射剤であり、経口投与の必要もないため、猫の慢性疼痛治療における魅力的な選択肢となると述べている。
- Highlights
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変形性関節症(OA)を有する猫に対するフルネベトマブの有効性・安全性を評価
275頭のOA猫を用いて、プラセボ群、フルネベトマブ群に分け二重盲検プラセボ対照試験を実施
フルネベトマブ群ではプラセボ群と比べて有意に治療成功率が高かった
また、飼い主による総合評価、獣医師評価における疼痛スコアはともにプラセボ群と比べてフルネベトマブ群で有意な改善が認められた
有害事象については皮膚障害のみフルネベトマブ群で有意に発生頻度が高かった
Assistant Professor of Behavioral Medicine
猫のOAの研究において、疼痛評価はプラセボが高く出やすい傾向にあり、今回の研究でも同様にプラセボ効果は高くでています。
これは複数の研究における猫の鎮痛剤の研究と一致しています。その理由はいくつか考えられますが、主なものの1つとして、人が自分の猫をこのような方法で評価することに慣れていないことが多いということにあります。
本試験とは別に実施したパイロット研究では、プラセボ効果もかなり高かったのですが、飼い主が自分の猫がどんな治療を受けたと思うかを尋ねたところ、プラセボ群の人は約50%の確率で正しかった(プラセボと回答)ことが、注目すべき点のひとつです。
これは確率論からしても50%になり得ます。一方で、治療群では83%の確率で正しい答え(治療群と回答)が返ってきており、より効果を実感できていることがわかります。
今回はプラセボ効果が出やすい長期の試験でしたが、それでもフルネベトマブ群でプラセボ群と比較して有意な改善効果が確認できたことは評価でき、猫の慢性疼痛治療における魅力的な選択肢となると思います。
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16291
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。