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犬のIRISステージ1慢性腎臓病(CKD)が進行性か安定性か判断することにおける尿中シスタチンBの有用性について、イスラエルのGilad Segev氏らは72頭の犬を用いて多施設、プロスペクティブに研究を実施した。その結果、健常犬および安定型のIRISステージ1のCKD犬と比べて、進行型のIRISステージ1の犬では有意に尿中シスタチンBの濃度が高いことが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2023年, 11, 12月号に掲載された。
研究の背景
慢性腎臓病(CKD)は腎臓の構造的、あるいは機能的な異常が3か月以上持続するものと定義される。CKDによる腎実質の欠損は不可逆的であり、進行性である。CKDの最も初期の段階であるIRIS CKDステージ1では、腎機能マーカーは、糸球体濾過量(GFR)との関係が非線形であり、またクレアチニンとSDMAの両者の参照範囲が比較的広いため、疾患が進行していくか否かの検出には感度が低いことが多い。
犬のCKDは進行性である傾向があるが、進行速度は犬によって大きく異なる。シスタチンBはシステインプロテアーゼ阻害剤ファミリーに属する11kDの細胞内タンパク質である。尿中のシスタチンBは、腎尿細管上皮細胞の傷害や細胞死と関連しており、ヒトでは糖尿病性腎症の患者で尿中シスタチンB濃度が上昇することが報告されている。そこで著者らは、尿中シスタチンBを用いてIRISステージ1のCKD犬が安定性か進行性か区別できるかどうか評価した。
本研究は健常犬とIRISステージ1のCKD犬を対象とした。健常犬は2012年2月から2015年2月に間に来院した犬で、臨床検査(SDMAや血液生化学検査など)により健康であると判断された犬を組み入れ、最長3年間追跡調査した。
IRISステージ1のCKD犬はミネソタ大学、ノースカロライナ州立大学、ヘブライ大学、カリフォルニア大学に2016年7月から2021年1月の間に来院した犬で、IRISのステージング分類に従ってステージ1と診断された犬を組み入れ、最長25か月追跡調査した。
安定型CKDか進行型CKDかの分類について
IRIS CKDステージ1の犬の安定型CKDと進行型CKDの分類は、各患者について逆SDMA(1/SDMA)を従属変数、追跡期間を独立変数とする最小二乗回帰を用いて算出した傾きに基づいて行った。
逆SDMAの傾きのカットオフ値(-0.0007)は健常犬から算出した。そのため、このカットオフ値よりも高いものを健常犬および安定型のCKDとし、低いものを進行型CKDと定義した。
尿中シスタチンB濃度
初診時の尿中シスタチンB濃度とCKDの進行率との関連性を評価した。
本研究には52頭の健常犬、12頭の安定型CKD犬、8頭の進行型CKD犬が組み入れられた。安定型CKDの犬はSDMAの持続的増加(n = 2)、蛋白尿の持続(n= 2)、および超音波検査での腎臓の構造的変化(n = 8)に基づいてCKDと診断された。進行型CKDの犬はSDMAの持続的増加(n = 2)、持続的蛋白尿(n = 3)、および超音波検査での腎臓の構造変化(n = 3)に基づいてCKDと診断された。
CKDの犬の尿中シスタチンB測定は来院ごとに実施し、およそ毎月の間隔で行った。
CKDの進行における尿中シスタチンB濃度の関連性
初診時の尿中シスタチンB測定結果の値は、健常犬 で17ng/mL、安定型CKDで24ng/mL、進行型CKDで212ng/mLであった。(P<0.001)
また、尿中シスタチンBの参考基準値(50ng/mL)を初診時から超えていたのは進行型では75%であったのに対し、健常犬、安定型CKDではそれぞれわずか6%、8%であった。
なお、初診時のSDMA、血圧、尿比重は安定型と進行型で有意差は認められなかったが、尿たんぱくクレアチニン比については進行型CKDの犬で有意に高かった。
結論
これらの結果から著者らは、尿中シスタチンBはCKD犬における活動性の腎内傷害を検出する有望なバイオマーカーであり、進行速度の代替マーカーとなりうると報告している。IRISのCKDステージ1では、尿中シスタチンBは安定したCKDと進行性のCKDを区別することができ、その結果、進行を遅らせ、患者管理を改善する機会を創出することが期待できるだろうと述べている。
- Highlights
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52頭の健常犬、12頭の安定型CKD犬、8頭の進行型CKD犬を用いて尿中シスタチンB濃度とCKDの進行率との関連性を評価した
IRIS CKDステージ1の犬の安定型CKDと進行型CKDの分類は、各患者について逆SDMA(1/SDMA)から算出
初診時の尿中シスタチンB測定結果の値は、コントロールで17ng/mL、安定型CKDで24ng/mL、進行型CKDで212ng/mLであった
尿中シスタチンBの参考基準値(50ng/mL)を初診時から超えていたのは進行型では75%であったのに対し、健常犬、安定型CKDではそれぞれわずか6%、8%であった
論文情報:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16887
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
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