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記事の最後に中島亘先生から本論文へのコメントがございます。よろしければそちらもご覧ください。
急性膵炎疑いの犬に対するフザプラジブの有効性について、アメリカのJoerg M. Steiner氏らは35頭の犬を用いてプロスペクティブに多施設ランダム化比較試験を実施した。その結果、プラセボ群と比較してフザプラジブ投与群において、有意に臨床症状の改善が認められることが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicineのオンラインサイトに2023年10月に掲載された。
研究の背景
犬の急性膵炎は、幅広い臨床症状が急性発症することに加えて、多臓器不全や高い死亡率(23%~58%)を伴う疾患である。膵炎の原因は多くの症例で不明である。炎症カスケードは膵腺房内のNK-κβの活性化、サイトカインの放出、膵臓内へのマクロファージや好中球の動員によって開始される。この好中球の膵臓および周辺組織への遊走は、サイトカインなどがLFA-1を活性化させることによって促進される。
フザプラジブはこのLFA-1活性化阻害剤であり、好中球の遊走を阻害することで膵炎の増悪を抑制することが期待されている。そこで著者らは、急性膵炎疑いの犬を用いてフザプラジブの有効性を評価することを計画した。
本研究は、多施設、盲検ランダム化、プラセボコントロ−ル、前向き試験である。症例の組み入れ基準は、6か月齢以上の犬、急性膵炎を疑う2つ以上の臨床症状(嘔吐、食欲不振、腹痛、嗜眠、下痢、脱水)を呈すること、血清犬膵リパーゼ免疫反応濃度(cPLI; Spec cPL, IDEXX)が400μg/L以上であった。
重篤な疾患(腸閉塞、腹腔内腫瘤、心肺疾患、末期慢性腎臓病、代謝疾患、自己免疫性疾患、重度の貧血、全身性感染症、悪性腫瘍、多臓器不全など)、コルチコステロイド、免疫抑制薬、抗がん剤、ホメオパシー療法、全血輸血などで治療されている犬などは除外した。
治療プロトコール
組み入れられた犬は以下の2群にランダムに分類され、4日間の治療および観察(0〜3日目)がなされた。
・フザプラジブ群:フザプラジブ0.4mg/kgを1日1回、3日間連続で静脈内投与した(0~2日目)
・プラセボ群:プラセボを1日1回、3日間連続で静脈内投与した
なお、両群ともに標準治療(輸液療法、制吐薬、疼痛管理、栄養療法など)が行われた。
フザプラジブの安全性評価
1日1回の完全な身体検査、0日目と3日目の血液検査と尿検査が行われ、全ての有害事象が記録された。
フザプラジブの臨床的有効性評価
臨床的有効性の評価は、診療する獣医師が1日1回、4日間連続で行った。臨床徴候のスコアリングシステムとして、MCAI(修正犬臨床活動指数)、CAPSCI(犬急性膵炎臨床重症度指数)を用いた。MCAIは、活動性、食欲、嘔吐、腹痛、脱水、糞便の状態、血便をそれぞれ重症度によってスコア化(計0−19点)したものであり、高いほど重症と判断する。また、血中のcPLI、CRP、サイトカインの濃度が1日1回測定された。
フザプラジブの安全性評価には61頭の急性膵炎疑いの犬(フザプラジブ群31頭、プラセボ群30頭)、有効性評価には35頭の急性膵炎疑いの犬(フザプラジブ群16頭、プラセボ群19頭)が組み入れられた。犬の平均年齢は10.1歳、平均体重は10.8kgであった。
フザプラジブの安全性評価
ベースライン時点での臨床病理学的データにおいて二群間に有意差は認められなかった。
観察期間中に142件の有害事象が報告され、フザプラジブ群で74.2%、プラセボ群で63.3%であり、2群とも同様の頻度であった。多く認められたものは、食欲廃絶、消化管障害(嘔吐、下痢、吐き気など)、呼吸器障害(頻呼吸、呼吸困難など)、肝障害であった。
フザプラジブの有効性評価
MCAIスコア
ベースラインの時点でフザプラジブ群のほうがプラセボ群よりもわずかにMCAIが高かった(8.6 vs 7.7)。0日目と3日目のMCAIスコアの差を比較すると、フザプラジブ群ではプラセボ群と比べて有意にMCAIが低下した。
CAPSCIスコア、血中のcPLI・CRP・サイトカイン濃度の変化
いずれも二群間で有意差は認められなかった。
結論
項目 フザプラジブ群 プラセボ群 P値
CAPCSIスコア -1.5 0 0.06
cPLI(μg/L) -338 -758 0.29
CRP(mg/L) -2 -19 0.75
IL-2(pg/mL) -4.9 1.5 0.31
IL-6(pg/mL) -5 -3.4 0.97
IL-8(pg/mL) 38.1 185.7 0.87
IL-10(pg/mL) 0 0 0.52
TNF-α(pg/mL) -0.4 0.2 0.68
プラセボ群と比較して、フザプラジブの3日間の静脈投与は明らかな有害事象を認めず、フザプラジブ投与は安全であると思われた。
フザプラジブ投与群は、プラセボ群よりも優位にMCAIスコアが低下したことから、フザプラジブ投与が急性膵炎を疑う犬の臨床徴候に対して治療効果があることが示唆された。
Limitation
研究のLimitationとして、症例数が少ないこと、観察期間が短いこと、臨床試験を行った病院が11施設と多いこと、症例組み入れ基準に腹部超音波検査所見がないこと、膵炎以外の消化器疾患が除外されていないこと、フザプラジブ以外の治療が標準化されていないこと、が挙げられる。
- Highlights
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急性膵炎疑いの犬35頭を用いてプロスペクティブ、多施設共同、盲検ランダム化試験を実施
標準療法のみのプラセボ群と、標準療法にフザプラジブの静脈内投与を実施したフザプラジブ群とで、臨床症状スコアの変化などを比較
主要評価項目であるMCAI(修正犬臨床活動指数)は、プラセボ群よりもフザプラジブ群の方が有意に低下した
副次的評価項目については二群間で有意差は認められなかった
小動物消化器センター センター長
待望のフザプラジブ(ブレンダZ)のエビデンスが公開されました。
筆頭著者はSpec cPLの生みの親スタイナー先生で、スタイナー先生はブレンダZ製造の石原産業からコンサルタントとして雇われているようです。
ランダム化比較試験なのは素晴らしいですね。私の記憶では、犬膵炎(疑いだけど)のランダム化比較試験は初なのではないかと思います。
急性膵炎疑いの犬にフザプラジブ 0.4 mg/kg IV 3日間を投与すると、プラセボと比較して、有意に臨床スコアが低下(ちょっとですが…)しています。
ただ、CRP低下、インターロイキン低下、cPL低下、入院期間、生存率は2群間で有意差は出ていないことや、論文中に書かれているLimitation(症例組み入れに腹部超音波検査のデータが無い、急性膵炎じゃなくて急性腸炎が多数採用された可能性がある)ということを考慮して、この研究結果を解釈する必要があります。また、死亡して剖検した犬の中に腸管リンパ腫1例と肝硬変1例がいたと書かれていますので、純粋な犬の急性膵炎を研究で集めるのは難しいですね。この論文は今後たくさん引用されると思いますので、COIの無い第3者による大規模な追加試験をぜひやってほしいところです。
ちなみにフザプラジブは米国FDAから認可され、米国では犬膵炎治療薬としてPANOQUELL®- CA1という商品名で販売されているようです。
日本で開発された動物用薬剤が海外販売まで行ったのも素晴らしいなと思いました。
論文情報:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.16897
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。