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猫の原発性高アルドステロン血症の診断におけるテルミサルタン経口投与による抑制試験の有用性について、フランスのVirginie Fabrès氏らは健常猫10頭および高アルドステロン血症の猫6頭を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、健常猫では投与前と比べて投与後でアルドステロン濃度が有意に低下したのに対し、高アルドステロン血症の猫では投与後に有意な変化をもたらさないことが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2023年7, 8月号に掲載された。
研究の背景
原発性高アルドステロン血症は副腎の片側または両側の腫瘍形成、或いは両側の過形成の結果、アルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。抗アルドステロン血症は低カリウム血症や全身性高血圧などを引き起こす可能性があり、猫では進行性の腎疾患と関連しているとされる。しかしながら原発性高アルドステロン血症の診断はアルドステロン/レニン比の測定などがスクリーニングとして必要であり、レニン活性の測定が普及していないことから診断が困難である。
一方ヒトにおいて、アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬(ARB)のロサルタンによる血清アルドステロン濃度の抑制試験に関する有用性が報告されている。この検査は迅速で、ロサルタンの経口投与2時間後に1回採血するだけで良い。そこで著者らは、テルミサルタンを用いて原発性高アルドステロン血症の診断における有用性について評価した。
本研究は6ヶ月齢以上の健常猫および2016年9月から2018年9月の間に来院し、原発性高アルドステロン血症と診断された猫をプロスペクティブに組み入れた。原発性高アルドステロン血症の診断は副腎腫瘤の存在があり、低カリウム血症に伴うアルドステロン濃度の上昇(>540pmol/L)もしくはレニン濃度の上昇(>3.8×10-9)があるものとした。
テルミサルタン抑制試験
健常猫および原発性高アルドステロン血症の猫を対象にテルミサルタン2mg/kgの経口投与を行った。
アルドステロン濃度はラジオイムノアッセイを用いて測定された。テルミサルタン投与前(T0)と投与1時間後(T1)、投与1.5時間後(T1.5)に測定を行い、T0からのアルドステロン変動率を算出した。
アルドステロン変動率(%)=(アルドステロン濃度(T1 or T1.5)―アルドステロン濃度(T0))/アルドステロン濃度(T0)×100
評価
アルドステロン濃度およびアルドステロン変動率を健常猫および高アルドステロン血症の猫とで比較を行った。
本研究には10頭の健常猫および6頭の高アルドステロン血症の猫が組み入れられた。高アルドステロン血症の猫はすべて低カリウム血症であり、試験開始時の血清カリウム濃度は2.5mmol/Lであった。また、試験開始時の収縮期血圧は150mmHgであり、内2頭が高血圧であった。
T0の時点での血清アルドステロン濃度は全ての高アルドステロン血症の猫で基準範囲(14-258pmol/L)を上回っており、健常猫のT0のアルドステロン濃度よりも有意に高かった。(2290 vs 274pmol/L, P<0.001)
テルミサルタン抑制試験の結果
テルミサルタン2mg/kgによる抑制試験のアルドステロン変動率は下グラフのとおり。
健常猫ではT0と比べてT1、T1.5で有意に低下し、すべての猫で-33%以下に抑制されたのに対して、高アルドステロン血症の猫ではT0と比べてT1、T1.5で有意な変化は認められず、-33%以下に抑制された猫はいなかった。
なお、いずれの猫においてもテルミサルタン投与に伴う高カリウム血症、低血圧などの有害事象は認められなかった。
結論
これらの結果から著者らは、テルミサルタンの経口投与による抑制試験は原発性高アルドステロン血症の猫を診断するのに有望な検査方法であることが明らかになったと報告している。今後、高齢の健常猫との比較や大規模な原発性高アルドステロン血症の猫を用いた試験が実施されることで、テルミサルタンによるアルドステロン抑制試験が安全かつ簡便で正確な試験方法になる可能性があると述べている。
- Highlights
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健常猫10頭、原発性高アルドステロン血症の猫6頭を用いてテルミサルタンの経口投与による血清アルドステロンの変動率を比較
テルミサルタン2mg/kgの経口投与前と投与1時間後、1.5時間後にアルドステロン濃度を測定
健常猫ではT1で-40%、T1.5で-47%と抑制されたが、原発性高アルドステロン血症の猫では+18%、+13%と抑制されなかった
健常猫ではすべての猫で-33%以下に抑制されたが、原発性高アルドステロン血症の猫では-33%以下に抑制された猫はいなかった
論文情報:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16689
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。