期間限定!
記事の最後に末松正弘先生からこの論文に対する解説コメントがございます!
短頭種の猫における鼻翼形成術による心肺機能および活動性に関連するパラメーターへの影響について、アメリカのHadley E. Gleason氏らは19頭の短頭種の猫を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、鼻翼形成術後に標準化血液肺通過時間(血液が肺を通過するための時間)が有意に短くなり、くしゃみ、いびき、開口呼吸、鼻汁が有意に減少し、活動性が増加することが明らかになった。結果はVeterinary Surgery 2023年5月号に掲載された。
研究の背景
短頭種気道症候群は短頭種の犬で良く認められるが、ペルシャやエキゾチックショートヘアなどの猫においても短頭種の犬と同様の頭蓋骨の特徴を有する。過去の研究では短頭種の猫では犬と同様に呼吸器、胃腸、活動性に関連した症状が多く認められることが報告されている。
犬においては外科的介入によって臨床症状が改善することが知られているが、猫における気道異常の有病率や外科的介入の効果についてはほとんど報告されていない。そこで著者らは、短頭種の猫における鼻翼形成術における心肺機能、臨床症状、活動性に対する影響を評価することを計画した。
参考:標準化血液肺通過時間(nPTT)について
本研究には純血種の短頭種猫をプロスペクティブに組み入れした。これらの猫は術前に臨床症状や行動について重症度をスコア化した。
外科的介入
全身麻酔下にて犬で報告されている方法を参考に鼻翼形成術を行った。鼻翼形成術は両側の鼻翼を切除し、除去した。
評価項目
術前、術後の全血球検査、生化学検査、トロポニンI(cTnI)、NT-pro BNP、エコー検査による標準化血液肺通過時間(nPTT)を計測し、比較した。
本研究には19頭の短頭種の猫が組み入れられた。14頭がペルシャ、3頭がエキゾチックショートヘア、2頭がスコティッシュフォールドであり、平均年齢は3.6歳であった。これらの猫のうち、くしゃみ(19頭)、いびき(18頭)、開口呼吸(17頭)、鼻汁(14頭)、咳(10頭)など様々な呼吸器症状が認められた。また、活動性の低下や消化器症状も認められた。
術前検査
術前検査では血液生化学検査や血ガスでは異常は認められなかった。すべての猫で鼻腔の狭窄が認められたが、航空咽頭検査では全頭で適切な長さの軟口蓋と喉頭囊が認められた。
手術後の変化
術前と比べて術後に全ての猫でnPTTの改善が認められ、nPTTが延長していた猫17頭は全て正常範囲内になっていた。NT-pro BNPとcTnIは術前術後に有意差は認められなかった。
臨床症状として、くしゃみ、いびき、開口呼吸、鼻汁、咳、呼吸困難などが有意に改善した。一部の項目の臨床症状の重症度スコアは下グラフのとおり。
また、有意な活動性の向上、活動時の呼吸困難の減少、摂食時の呼吸困難の減少、活動からの回復が早くなった。
術中・術後合併症
術中の合併症は認められなかった。術後合併症は鼻出血が1頭、唾液過多が3頭認められたのみであった。
結論
これらの結果から著者らは、短頭種の猫における鼻翼形成術は安全であり、呼吸器症状のおよび活動性の改善、心肺機能の改善につながることが明らかになったと報告している。また、短頭種の猫は犬と同様の臨床症状を示したが、解剖学的な要因は狭窄した鼻腔が主であり、軟口蓋などは正常であったと述べている。
- Highlights
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短頭種の猫における鼻翼形成術の呼吸器症状、活動性、心肺機能への影響を評価
短頭種の猫のCT検査の結果、全頭で鼻腔の狭窄が認められたが、軟口蓋などは正常であった
鼻翼形成術後にくしゃみ、開口呼吸、咳、いびき、鼻汁などの臨床症状が有意に改善
活動性が有意に改善、活動時の呼吸困難などが有意に減少
血液肺通過時間が有意に短縮(心肺機能の改善を示唆)
京都動物医療センター 呼吸器科
TRVA動物医療センター
猫の外鼻孔狭窄は短頭種によく認められ、特にエキゾチックショートヘアに多いです。鼻孔が狭いことで鼻炎(化膿性鼻炎)や咽頭虚脱を引き起こし、重度例では呼吸困難を引き起こし生命に関わる状態に陥ることもあるため、早期の外鼻孔拡大術が必要となります。
今回の術式では鼻翼を切除するという大胆な術式になっています。これにより呼吸状態が改善していますが、注意点としては切除する深さになると思います。浅いと改善が乏しくなる可能性があるので、できるだけ深く切除する必要があると考えられます。そうすることで気流抵抗を軽減し、呼吸状態の改善が期待できると思います。
また、出血が1例で見られていることから出血のコントロールが必要になります。外鼻孔からの出血は鼻腔、咽頭を通過し、喉頭へ流入することもあるため管理に注意しなければなりません。今回は19例で実施されていますが、時に軟口蓋過長が認められることもあるため、術前の評価は内視鏡検査もしくはCT検査を用いて実施しておくとより安全、安心して手術が行えるであろうと考えています。
論文情報:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/vsu.13948
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。