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記事の最後に中島亘先生から本論文のポイントをコメントとしていただいております。ぜひご覧ください。
犬の非感染性急性大腸炎の犬に対する食事療法、メトロニダゾールの有効性について、アメリカのAdam J. Rudinsky氏らは59頭の犬を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、寛解までの期間は食事療法のみで5日間、食事療法にメトロニダゾールを加えた場合は8.5日と有意に遅延することが明らかになった。結果はJournal of the American Veterinary Medical Association 2022年12月号に掲載された。
研究の背景
急性大腸炎は犬においてよく認められる疾患の一つであり、原因が特定できない場合も少なくない。管理方法として食事療法、プロバイオティクス、抗菌薬、食物繊維の補給などがあるが、これらの治療の有効性に関するエビデンスは限られている。
メトロニダゾールは抗菌作用に加えて抗炎症作用、抗寄生虫作用を有し、犬の急性大腸炎の第一選択薬として使用されている。しかしながら、消化管マイクロバイオームへの影響が懸念される。一方で食事療法は大きな副作用のない効果的な選択肢として推奨されている。そこで著者らは、非感染性の急性大腸炎の犬を用いて、易消化性の食事療法単体とメトロニダゾールを加えた場合、サイリウムを強化した易消化性の食事療法の3群に分けて有効性を評価することを計画した。
本研究はプロスペクティブ、盲検ランダム化試験を実施した。
・組み入れ基準:1歳以上10歳未満の犬、急性大腸性下痢(3日未満)あり、糞便の遠心式浮遊試験で寄生虫が検出されず、ジアルジア/クリプトスポリジウム抗原検査が陰性
・除外基準:他の臨床症状(嘔吐、食欲不振、腹痛、小腸性下痢、メレナ、嘔吐、体重減少])あり、過去90日間に何らかの消化器徴候あり、3日以上の大腸性下痢、急性出血性下痢症候群、入院が必要な場合、糞便検査で寄生虫あり、その他の全身性疾患がある、抗菌薬やプロバイオティクスを内服している犬
プロトコール
組み入れられた犬は以下の3群に分けて30日間の食事試験を実施した。
・グループ1:易消化性の食事療法(総食物繊維量=15.3g/Mcal)とプラセボの錠剤を投与
・グループ2:グループ1の食事療法にメトロニダゾール10mg/kg PO BIDで7日~10日投与
・グループ3:グループ1の食事にサイリウムを強化した食事療法(総食物繊維量=28.3g/Mcal)とプラセボの錠剤を投与
検査
組み入れられた犬の試験登録時(Day0)、再検査時(Day7-10)、試験終了時(Day30)に犬の糞便サンプルを用いて腸内細菌叢を検査した。過去の報告に基づきディスバイオーシスインデックス(DI)を算出した(DIが0未満:正常、0-2:軽度~中程度の細菌叢変化、2以上:ディスバイオーシス)。また、糞便スコア(1:硬い便~5:液状便の5段階で評価)や急性大腸炎の臨床症状などを記録した。
評価
各犬に対して急性大腸炎の寛解までの期間を評価した。寛解の定義は3日間連続して糞便スコアが3以上なかった日とし、3日連続の3日目を寛解日とした。また、寛解後の再発は寛解達成後の糞便スコアが3以上になったものとした。3群間における寛解までの日数を比較・評価した。
本研究には59頭の非感染性急性大腸炎の犬が組み入れられた。各群の年齢、体重に有意差は認められなかった。また、Day0の時点における糞便スコアと臨床症状の持続期間に群間差はなかった。
寛解までの日数
各群における急性大腸炎の寛解までの中央日数は下グラフのとおり。
グループ2に対してグループ1、グループ3は有意に寛解までの期間が短かった。
寛解後の再発回数
各群における寛解後の再発回数は3群間で有意差は認められなかった。
ディスバイオーシスインデックス
細菌叢の乱れの指標となるDIの各群の値は下グラフのとおり。
グループ1とグループ3ではDay0, Day7-10, Day30の時点で差はなかったが、グループ2でDIがDay7-10の時点で有意に悪化した(腸内細菌叢の乱れが発生した)。
結論
これらの結果から著者らは、非感染性の急性大腸炎に対する食事療法は、メトロニダゾールを併用した食事療法と比べて効果的な治療法であることが明らかとなったと報告している。メトロニダゾールを投与することは治療効果の遅延と関連しており、ディスバイオーシスが起こる原因にもなるため、投与すべきではないであろうと述べている。
- Highlights
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非感染性の急性大腸炎の犬59頭をプロバイオティクスに組み入れ
食事療法単体と、メトロニダゾールを併用、サイリウムを強化した食事療法の3群で寛解までの期間を比較
寛解までの期間は食事療法単体、サイリウムを強化した食事療法で5日間、メトロニダゾールを併用した群では8.5日と有意に長かった
ディスバイオーシスインデックスはメトロニダゾール併用群でDay7-10で有意に悪化した
小動物消化器センター センター長
犬の非感染性急性大腸性下痢に対してきちんとしたプロトコルでランダム化比較試験(RCT: randomized controlled trial)をおこなった研究で、エビデンスレベルは高いと思います。
結果としては、「高消化性食+メトロニダゾール(5-10 mg/kg PO 5-7日間)」よりも、「高消化性食±サイリウム」での治療は下痢が消失する期間が有意に短くなっています。この結果を見ると、原因不明の急性大腸性下痢の犬に対して、良かれと思ってメトロニダゾールを投与すると、下痢の期間が延長する可能性があり、無差別的にメトロニダゾールを第1選択薬として処方するのは止めたほうがよいことを示唆しています。
また今回の研究では、メトロニダゾール投与群に臨床的な副作用はみられませんでしたが、ディスバイオーシスindexは悪化しており、メトロニダゾールは腸内細菌叢を変化させています(抗菌薬なんで当たり前と言えば当たり前ですが)。他の研究では、犬に対するメトロニダゾール投与がClostridium hiranonis(善玉菌)を減少させ、胆汁酸代謝を変化させることが明らかになっており、メトロニダゾールの負の側面が強調されています。
薬剤耐性、腸内細菌叢の変化(ディスバイオーシス)、消化器徴候の悪化、公衆衛生の問題などから、近年さらに小動物診療においても抗菌薬の適正使用が提唱されています。我々臨床医は急性下痢の犬が来院した時、どれか効いてくれーと思って、複数の薬剤やサプリメント(プロバイオティクス、止痢薬、メトロニダゾール、タイロシンなど)を処方したくなりますよね。早く下痢を治して、飼い主と犬を助けたいですから。
以前私は、急性下痢の犬にメトロニダゾールやタイロシンをよく処方していました。しかし今は急性下痢(小腸性でも大腸性でも)の犬には抗菌薬を処方しないようにしています。ほとんどの急性下痢の症例は抗菌薬を内服しないでも、消化器系療法食とプロバイオティクスを処方すれば、下痢は速やかに良くなります。もちろん抗菌薬が下痢に効く症例も時にはいますが、少数なのではと感じています。
ちなみに今回の研究の採用症例では、糞便検査にて寄生虫を除外していますが、細菌性下痢を診断・除外しておりません。筆者らは犬の急性大腸炎の原因として細菌性のものは少ないと書いています。
もちろんさらなる研究が必要ですが、このようなエビデンスレベルの高いRCTが今後も増え、我々臨床医が指針とできる論文が増えることを願っています。
論文情報:https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/260/S3/javma.22.08.0349.xml
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。