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みなさん、こんにちは。
獣医師・キャリアコンサルタントの岡野 顕子です。
今回は、獣医師の働き方と収入に関してお話しさせていただきたいと思います。
獣医師の働き方には、このサイトを多く見られている小動物臨床獣医師として動物病院で働く、また自身が開業し経営者として働く、製薬会社で働く、公務員として働くなど幅広く、どのような働き方をするかによって、生活スタイルや収入に差が出てきます。
収入や働き方には、インターネットなどで様々な情報が飛び交っていますが、今回は情報を整理し、みなさんの今後のキャリアの一助となるように情報提供したいと思います。
実際の獣医師の収入
収入などのデータのもとになっているのは、多くが厚生労働省の賃金構造基本統計調査によるものです。(賃金構造基本統計調査とは、主要産業に雇用される労働者の賃金の実態を明らかにする統計調査です。※平均年収は、決まって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額にて計算されていますが、本統計はサンプル数が少ないため、必ずしも実態を反映しているとは限りません。)
厚生労働省の令和2年度賃金構造基本統計調査によると、獣医師の平均年収は37.7歳で約631万円となっています。また、厚生労働省から出ているデータであるため、臨床動物獣医師だけのデータではありませんが、日本のビジネスパーソンの平均年収が役430万と言われているため、獣医師の平均年収はやや高いと考えられます。(国税庁の『令和元年分 民間給与実態統計調査』)。
平均年収 | 631万 |
月給 | 46万 |
ボーナス | 82万 |
平均年齢 | 37.7歳 |
年齢や経験により獣医師の収入に差はあるのか
次に経験年数ではどうなのか。獣医師の月収は経験年数が増えるごとに増加します。0年は25.3万円、1~4年で31.3万円、5~9年で36万円、10~14年で52.3万円、15年以降で51.6万円でした。
年間ボーナスも、経験年数が増えるごとに、確実に増加していきます。なので、年収としては経験年数0年はおおよそゼロからのスタートですが、1~4年で342万円、5~9年で635万円、10~14年で963.7万円になります。ピークは15年以降で1305万円でした(従業員10-99人規模)。
これらは、すべてどの働き方にかかわらず、獣医師の収入データとしてまとめられています。
では、小動物臨床においてどうなのかというと、今年7月にTwitterで獣医師給与実態調査が行われていたので、検証したいと思います。
リアルなTwitterでのデータ
賃金構造基本統計調査では、職種に関係なく全獣医師の平均給与が述べられていますが、2021年7月にTwitterにおける調査(有効回答数474)では、小動物臨床や企業、第動物、企業、公務員と給与平均と休日日数に関して行われました(Twitter調査は、実施者の同意をえて掲載しております)。賃金構造基本統計調査では平均年齢が37.7歳、平均年収631万、Twitter調査では、平均年齢が31.6歳と若く、平均年収555万という結果になっています。Twitter利用者が、比較的若い年代によるものから、平均年齢が低い傾向にあるのではないかと考えられます。
では、小動物臨床におけるデータを見てみましょう。
こちらは、勤務医と開業医でデータが分けられています。勤務医のデータが、193人、開業医が29人となっています。
勤務医の平均年齢が30.5歳、平均年収が492万と、先ほどあげた賃金構造基本統計調査での結果より、収入が低いように見えます。
ここで、今回のTwitter調査の結果を男性と女性分けて分析してみます。
あくまで、参考データですが、女性の年収が男性と比較して随分と低いと思いました。
女性は、結婚や出産といったライフイベントが多く、継続した勤務が難しいことが考えられます。私自身も勤務医としての経験が18年ほどありますが、女性であっても、継続した勤務をしている場合は、男女差なく評価を受けていると考えていたため、少し驚きの結果です。
余談にはなりますが、獣医師法第22条に基づく届出によると、年々小動物臨床に従事する獣医師は増えています。2004年には、10,000人ほどだったところ、2016年には15,000人に増加しています。ただ、同時に40歳以下の小動物に占める女性獣医師の割合は、約半数となっており、今後女性獣医師が働きやすい環境の整備は、今以上に動物病院においては求められることになると推察します。
獣医師の働き方
勤務医として働くメリット
勤務医経験のある私としては、勤務医として動物病院で働くことにメリットもあると感じています。勤務されている方が、当たり前だと思っていることこそ、勤務医のメリットとしてあげられます
・給与が支払われる
・仕事がある
・仕事のノウハウを学ぶことができる
・有休がある
・社会的信用
・法的福利厚生制度を受けることができる
・税金などの管理は会社が対応
会社で雇用されていると、会社が負担し雇用保険に加入しています。雇用保険に入るには、ある一定条件働くことが条件になりますが、雇用保険に加入していると、産休や育休中の補償を受けることができます。当たり前と思って受けている補償などは、雇用されているメリットとしてはかなり大きいと言えるでしょう。
開業、独立するメリット
上記のデータでは、開業医の収入は多いように思います。
しかし、収入を得るためには、勤務医としていたメリットを雇用した従業員に提供することや人材の確保が経営者に求められます(雇用保険は企業の労働者が加入対象で、経営者や個人事業主は加入することができません)。自身でやりたことが明確であれば開業は、本人がやりがいを感じられる働き方になると考えられます。開業のメリットとしては、仕事に対する裁量権が高くなることが、収入以外にメリットしてあげられると思います。
また、最近では、動物病院の開業意外に、個人としてフリーランスで働く勤務医としてのスタイルも出てきており、小動物臨床における働き方も、自身のライフスタイルややりたいことなどが勤務医や開業という形ではなく実現できそうです。フリーランスの場合は、勤務医と違い、雇用されるメリットの恩恵を受けることができないことが多いため、フリーランスとしての情報を提供するネットワーク(獣医フリーランスネットワーク)などを通じ、メリットやデメリットを再認識する必要があると思います。また、フリーランスの場合は、勤務医の場合よりも、より主体的なキャリア形成が求められるのではないかと、考えています。
まとめ
獣医師の働き方や収入は、自身がどのような形で働くかによってメリット、デメリットは異なると思います。キャリア支援をしている中では、開業して良かった、勤務医でよかったなど、様々な思いをお伺いすることが多いのですが、自身が選んだ道を「良かった」と言えるようになるには、弛まぬ努力があることと、自身のキャリアに責任を持ち、世の中の流れにも柔軟に対応できている方が多いように思います。
今回のデータでは、小動物臨床医において、女性の収入が男性獣医師より低い傾向にありましたが、私を含め、私の知る女性獣医師の先生方は、男性獣医師と同等の評価を受け、給与も男性と同じかそれ以上を得ている方が多くおられます。そういう意味では、男女差のない、個人的な技術や能力が評価される業界だと考えています。ただ、その一方で、女性の結婚や出産によって、継続的なキャリア形成ができていない背景も、浮き彫りになったように思います。女性が継続して働ける業界が求められていることとともに、女性が自身の能力や技術を意欲的に吸収し、主体的なキャリア形成を行う支援ができればと考えさせられました。
今回の情報が、皆さんのキャリアを主体的に考える一助になれば幸いです。
獣医師、キャリアコンサルタント
日本大学獣医学科卒業後、20年近く小動物臨床に従事し、また10年以上管理職を経験。
現在は、獣医師そしてキャリアコンサルタントの視点から、働くスタッフと経営者の相談に乗りながら動物病院専門のトータルアドバイザーとして動物病院をサポート。
管理職や20年近くに及ぶ現場での一般臨床の経験や知識を基に、働くスタッフが笑顔であり続ける環境を目指し、奮闘中。
経歴・職歴
近江兄弟社高等学校卒業
2001年 日本大学農獣医学部獣医学科卒業
2001年 国家資格 獣医師免許取得
2001-2019年 動物病院(京都市)勤務 在職中は副院長・院長・事務局長
2019年 Veterinary Career Lab SMILE設立
2019年 国家資格 キャリアコンサルタント取得
比較眼科学会 臨床生涯教育プログラムセミナー 修了
Improve International General Practitionar Certificate Programme in Small Animal Surgery 修了
国際TA協会 TA101修了