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犬の肥満細胞腫、軟部組織肉腫の外科切除後のマージンと局所再発率および転移率についてアメリカのMilan Milovancev氏らは、53頭の肥満細胞腫ないし軟部組織肉腫の犬(肥満細胞腫52、軟部組織肉腫19、計71腫瘤)を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、マージンが1mm未満であった数は肥満細胞腫で21/52(40%)、軟部組織肉腫では7/19(37%)であったものの、全体の局所再発率および転移率は肥満細胞腫でそれぞれ5.8%、3.8%、軟部組織肉腫では0%であることが明らかになった。結果はVeterinary Surgery 2020年1月号に掲載された。
研究の背景
犬における肥満細胞腫および軟部組織肉腫の治療として外科的切除を行うことが多く、顕微鏡的に腫瘍の無いマージンを得ることを重要視する。過去の報告でもマージンが不完全であるとどちらの腫瘍のタイプにおいても局所再発のリスクが高くなることが知られている。しかしながらマージンが十分であっても再発するケースや、不十分であっても再発しないケースもある。しかしながらほとんどの研究がレトロスペクティブであり、プロスペクティブにマージンと長期予後との関連性について評価したものはない。そこで著者らは外科切除を実施した肥満細胞腫と軟部組織肉腫の犬を用いて、2年間のプロスペクティブ試験を実施し、マージンと局所再発率、転移率について評価することを計画した。
本研究は肥満細胞腫ないし軟部組織肉腫の外科切除のために来院した犬を組み入れ、2年以上の期間にわたってプロスペクティブに研究を実施した。組み入れ対象とした犬は皮膚または皮下の肥満細胞腫ないし軟部組織肉腫を肉眼的にマージン1mmのマージンを確保して切除できた犬とした。
データ収集
組み入れられた犬は術後3, 6, 12, 18, 24か月後に診察を行った。組織学的検査で高グレードと分類された犬については化学療法などの追加の内科療法を受けるかどうか相談を実施した。再発が疑われた場合にはFNAを実施した。組み入れられた犬のシグナルメント、体重、ボディコンディションスコア、腫瘤の位置、サイズ、ステージ分類、所属リンパ節の状態などを収集した、また、組織学的検査結果におけるマージンや悪性度の評価も収集した。
予後
局所の再発および転移が確認された犬の頭数を評価した。
本研究には53頭の犬が組み入れられた(肥満細胞腫:52、軟部組織肉腫:19、計71腫瘤)。多く組み入れられた犬種はラブラドールレトリーバー(14頭)、雑種(8頭)であった(パグは2頭)。肥満細胞腫、軟部組織肉腫のそれぞれのグレードは下表のとおり。
腫瘍 | 悪性度(グレード) |
---|---|
肥満細胞腫 | 低悪性度:50、高悪性度:2 |
軟部組織肉腫 | グレード1:12、グレード2:6、グレード3:1 |
肥満細胞腫のマージン中央値は20mm、軟部組織肉腫のマージン中央値は30mmであった。マージンが1mm未満であった数は肥満細胞腫で21(40%)、軟部組織肉腫で7(37%)であった。
予後
53頭の犬の24か月間の臨床的転帰は下グラフのとおり。
低悪性度の肥満細胞腫50のうち2つの腫瘤で(4%)再発した。これらのうちの1つはマージンが10.6mm、もう1つはマージンが0mmであった。また、転移は低悪性度の肥満細胞腫36頭中2頭(6%)で認められた。高悪性度の肥満細胞腫の犬2頭中1頭は再発も転移も認められなかったが、もう1頭は再発が認められた。なお、軟部組織肉腫は再発・転移いずれも認められなかった。
結論
これらの結果から著者らは、低~中等度の悪性度の肥満細胞腫および軟部組織肉腫の局所再発率はマージン1mm未満が多かったにもかかわらず低いことが明らかになったと報告している。外科的切除の際には悪性度と予後を考慮しながら、マージンを確保できるように努めるべきであろうと述べている。
- Highlights
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肥満細胞腫と軟部組織肉腫の犬のマージンと再発率、転移率についてプロスペクティブに研究を実施
53頭の犬(肥満細胞腫:52、軟部組織肉腫:19、計71腫瘤)
マージン1mm未満は肥満細胞腫で21/52(40%)、軟部組織肉腫では7/19(37%)
局所再発および転移は肥満細胞腫で3/52(5.8%)、2/52(3.8%)
軟部組織肉腫は再発、転移いずれも認められなかった
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/vsu.13225
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。