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猫の画像検査時の脾臓サイズに対する鎮静薬の影響についてアメリカのMylène Auger氏らは、15頭の健常猫を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、一部の鎮静薬は画像検査において脾臓の大きさが有意に大きくなることが明らかになった(種類は後述)。結果はVeterinary Radiology and Ultrasound 2019年11、12月号に掲載された。
研究の背景
脾腫は猫における非特異的な所見であり、様々な再生性、腫瘍性および炎症性の状態を示すことがある。猫の脾臓のX線検査および超音波検査による評価では、鎮静薬の投与が必要となることがあるが、この鎮静薬の投与が脾腫と関連しているのではないかと言われている。脾臓の大きさに対する鎮静薬の影響については、過去にアセプロマジンを用いたものが1つだけ報告されており、アセプロマジンの投与でヘマトクリット値の低下と脾臓が大きくなることが言われている。犬においてはアセプロマジン、ジアゼパム、デクスメデトミジン、チオペンタールの投与が脾臓サイズを大きくすることが分かっている。この機序については完全に解明されていないが、脾臓被膜にある平滑筋細胞の弛緩により、脾臓に赤血球が蓄積することが少なくとも部分的に関連していると考えられている。そこで著者らは、健常猫を用いて様々な鎮静薬の画像検査時の脾臓サイズに対する影響を評価することを計画した。
本研究はプロスペクティブ、ランダム化クロスオーバーデザインで実施した。健常な猫に対して以下の鎮静薬を1週間おきに投薬した。
①アセプロマジン:0.03 mg/kg IV
②ブトルファノール:0.3 mg/kg IV
③デクスメデトミジン:3 μg/kg IV
④ミダゾラム+ブトルファノール:それぞれ0.3 mg/kg IV
⑤デクスメデトミジン+ブトルファノール+ケタミン:5 μg/kg, 0.3 mg/kg, 5 mg/kg IM
各鎮静薬の投与15~30分後に鎮静状態を評価(0:鎮静無し~13:最も深い鎮静)した。
画像検査
それぞれの猫について投与前のX線検査、超音波検査およびヘマトクリット値と総蛋白濃度をベースラインとして測定した。また、鎮静薬投与15~30分後(Time1)と2~3時間後(Time2)にX線検査、超音波検査を実施して脾臓サイズを評価した。またヘマトクリット値と総蛋白濃度は鎮静薬投与30分後に測定した。
超音波検査
脾臓の頭部(近位1/3)、体部(中央1/3)、尾部(遠位1/3)の横断面ならびに体部の縦断面のそれぞれ最も厚い部分の厚み(高さ)を計測した。
X線画像検査
ラテラル像にて脾臓の幅と高さを算出した。
評価
各群のベースラインからの脾臓サイズの変化を評価した。
本研究には15頭の健常猫が組み入れられた。平均年齢は3.1歳、平均体重は4.6kgであった。
鎮静後の脾臓サイズ(超音波検査)
鎮静前の脾臓サイズをベースラインとした時の鎮静後(Time1)の脾臓サイズの変化量は下グラフのとおり。
アセプロマジンは超音波検査で鎮静後に脾臓サイズが有意に大きくなり、鎮静2~3時間後(Time2)でも有意に大きかった。ブトルファノール、デクスメデトミジン、DBK、MBは鎮静前後で超音波検査、X線検査ともに有意な変化は認められなかった。
鎮静後の脾臓サイズ(X線検査)
鎮静前の脾臓サイズをベースラインとした時の鎮静後(Time1)の脾臓サイズの変化量は下グラフのとおり。
アセプロマジン、デクスメデトミジン、DBK、MBは鎮静後に脾臓サイズが有意に大きくなった。一方、ブトルファノールは鎮静前後で有意な変化は認められなかった。
ヘマトクリット値
鎮静前のヘマトクリット値をベースラインとした時の鎮静後のヘマトクリット値の変化量(%)は下グラフのとおり。
ブトルファノール以外の鎮静薬は有意にヘマトクリット値が有意に低下した。
結論
これらの結果から著者らは、アセプロマジン、デクスメデトミジン、MB、DBKの投与は脾臓サイズが増大する可能性があることが明らかになったと報告している。これらのことを考えて脾腫の原疾患の精査の際には、特にアセプロマジンの使用は避けるべきであり、ブトルファノールを用いた方が良いだろうと述べている。
- Highlights
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健常猫15頭を用いて鎮静薬の脾臓サイズに対する影響を評価
アセプロマジンは超音波検査、X線検査ともに脾臓サイズが増大
デクスメデトミジン、MB、DBKはX線検査で脾臓サイズが増大
ブトルファノールはいずれも影響せず
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論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/vru.12791
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
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