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健常猫と無症状の肥大型心筋症(HCM)の猫における心血管リスクについてアメリカのPhilip R. Fox氏らは、1730頭の猫(健常猫:722頭、無症状HCM猫1008頭)を用いて多施設における大規模なレトロスペクティブ調査を実施した。その結果、無症状HCM猫は5年後に約4頭に1頭が心血管系イベントにより死亡することが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2018年、5、6月号に掲載された。
研究の背景
心筋症は猫における心血管系の死亡の主要な原因であり、中でも肥大型心筋症(HCM)は最も多く認められる。HCMの重篤な合併症としてうっ血性心不全(CHF)や動脈血栓塞栓症(ATE)、突然死(SD)がある。しかしながら無症状のHCM猫におけるこれら合併症のリスクは不明である。また、肥大型心筋症の中でも閉塞性肥大型心筋症(HOCM)はヒトでは心血管死の予後悪化因子とされるが、猫についてはよくわかっていない。そこで著者らは非閉塞性および閉塞性肥大型心筋症の猫を用いて心血管系イベントおよび心血管死の長期リスクを評価することを計画した。
本研究は、21か国、50施設で行われ、2001年11月から2011年1月までに来院した722頭の健常猫および1008頭の無症状HCM猫(非閉塞性:430頭、閉塞性:578頭)を対象に解析を行った。HCMの診断は心エコー検査で拡張末期の自由壁ないし中隔壁厚≧6mmとし、閉塞性は流出路狭窄を伴うものとした。但し、うっ血性心不全、動脈血栓塞栓症、失神、犬糸状虫症、高血圧症、甲状腺機能亢進症、貧血、慢性腎疾患、その他の心筋症、先天性心疾患、癌などの余命が短くなると判断される疾患を有する猫は除外された。
データ収集
組み入れられた猫の年齢、品種、体重、身体検査所見、エコー所見、心電図、薬剤投与歴、CHF、ATE、SDなどに関するデータを収集した。心血管イベントはCHFないしATEの発症と定義した。また、心血管死はCHF、ATEによる死亡・安楽死およびSDによる死亡と定義し、死因を心血管死と非心血管死とに分けた。
評価
健常猫および無症状HCM猫における各期間をカプランマイヤー曲線により算出した。
①心血管死までの生存期間:試験登録日(健常ないしHCMと診断された日)から心血管系に由来する死亡までの期間(全頭解析)
②心血管イベントまでの期間:試験登録日からCHFないしATE発症までの期間
③心血管イベント後生存期間:CHFないしATE発症から心血管死までの期間
また、1年、2.5年、5年、7.5年および10年後生存率、心血管イベント発生率も算出した。
本研究には722頭の健常猫および1008頭の無症状HCM猫(非閉塞性:430頭、閉塞性:578頭)が組み入れられた。
心血管イベント発生率
心血管イベント(CHFないしATE)発生率は下グラフのとおり。
なお、心血管イベントおよび心血管死の内訳は下表のとおり。
CHFおよびATEの発生率は非閉塞性と閉塞性で有意差は認められなかった。
項目 健常猫
(722頭)HCM猫
(430頭)HOCM猫
(578頭)HCM/HOCM猫
(1008頭)
CHF 6頭(0.83%) 106頭(24.7%) 138頭(23.9%) 244頭(24.2%)
ATE 5頭(0.69%) 41頭(9.5%) 76頭(13.2%) 117頭(11.6%)
突然死 0頭(0%) 9頭(2.1%) 13頭(2.3%) 22頭(2.2%)
心血管死 7頭(0.97%) 115頭(26.7%) 166頭(28.7%) 281頭(27.9%)
心血管イベントリスク
診断から1年後、5年後、10年後の心血管イベントリスクおよび死亡リスクは下グラフのとおり(クリックで写真を拡大して閲覧できます)。
生存期間
心血管死までの生存期間は健常猫群と比べて無症状HCM群で有意に短かった(無症状HCM群:10.9年、健常猫は心血管死の発生率が低く、算出できず)。
非閉塞性と閉塞性の比較
非閉塞性と閉塞性で心血管死までの期間、心血管イベント発生までの期間、心血管イベント発生から心血管死までの期間に有意差は認められなかった。
結論
これらの結果から著者らは、無症状のHCM猫の約3頭に1頭で心血管イベント(CHF, ATE, SD)が発生すること、4頭に1頭が5年後に心血管死に至ることが明らかになったと報告している。また、閉塞性と非閉塞性とでこれらのイベント発生率や死亡率、生存期間などに有意差は認められなかったと述べている。健常猫と比べて無症状のHCM猫は心血管イベントおよび心血管死が非常に多いことから、モニタリングを最適化してリスクを低下させるような治療戦略が必要になるであろうと述べている。
- Highlights
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健常猫と無症状のHCM猫(非閉塞性、閉塞性)で心血管イベント発生リスクなどを比較
21か国、50施設で行われ、722頭の健常猫および1008頭の無症状HCM猫をレトロスペクティブに調査
無症状猫の約3頭に1頭で心血管イベントが発生
無症状HCM猫の約4頭に1頭が5年後に心血管死に至る
閉塞性と非閉塞性で心血管イベント発生率、死亡率、生存期間に有意差なし
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.15122
(こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。