期間限定!
記事の最後に東京猫医療センターの服部幸先生から頂いたX線画像(評価のトレース付き)がございます。ぜひご覧ください!
猫の肝臓サイズの定量評価法について韓国のGayeon An氏らは、25頭の健常猫を用いてプロスペクティブに研究を実施した。その結果、肝臓の長さ(横隔膜の頭側と後大静脈の交点から肝臓尾側まで)を第11胸椎椎体で割ったもの(LL/T11)がCTでの肝臓容積と最も相関関係が強いことが明らかになった。なお、健常猫のLL/T11は4.22±0.54であった。結果はVeterinary Radiology and Ultrasound 2019年11、12月号に掲載された。
研究の背景
肝臓のサイズは肝疾患の指標として用いられ、肝血管のうっ滞やステロイド、肝リピドーシス、炎症性疾患、腫瘍は肝腫大の鑑別診断として重要である。特に猫においては肝リピドーシスが最も多い肝腫大の原因である。しかしながら猫の肝臓サイズを定量的に評価することは難しい。肥満猫の場合には鎌状靭帯に過剰な脂肪が沈着することで肝実質が背側に偏位し、小肝症と誤診されることがあり、高齢猫の場合には鎌状靭帯が伸長し、肝臓が尾側に偏位することで肝腫大と誤診されることもある。そこで著者らは、犬で報告されている客観的定量評価法である肝臓の長さを第11胸椎で割ったもの(LL/T11)を用いて、CTでの実際の肝臓の容積と比較することで、猫での肝臓サイズの定量評価法として使用可能か評価することを計画した。
本研究はプロスペクティブ、レトロスペクティブ2つの試験デザインで実施した。プロスペクティブ試験では猫の姿勢や横臥の向き(LL, RL)、撮影範囲などのLL/T11に対する影響を評価するために実施した。レトロスペクティブではLL/T11の正常基準範囲を算出し、年齢や肥満の影響について評価した。
- プロスペクティブ試験
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健常猫25頭を組み入れ、全身麻酔下でX線およびCT撮影を実施した。
X線撮影条件
X線画像は右横臥位(RL)では屈曲、中立、伸展の3つの姿勢で腹部撮影を行い、左横臥位(LL)では標準的な腹部撮影を行った。また、右横臥位での胸部撮影(肝臓を含む)も行った。また、CT撮影では肝臓の容積を算出した。
LL/T11の算出
得られたラテラル画像からLLとT11をそれぞれ以下のように算出した。
・LL:横隔膜の頭側と後大静脈の交点から肝臓尾側までの長さ
・T11:第11胸椎椎体の長軸の長さ
画像提供:東京猫医療センター 服部 幸先生
評価
CTで得られた肝臓の容積とLL/T11の相関関係を評価した。また、撮影条件(姿勢、横臥の向き、撮影範囲)のLL/T11に及ぼす影響についても評価した。 - レトロスペクティブ試験
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2008年1月から2018年8月までに腹部X線画像を撮影した猫をレトロスペクティブに組み入れした。これらの猫のRL腹部画像からLL/T11を算出した。
評価
LL/T11と年齢、体重、性別、ボディコンディションスコア(BCS)との相関関係を評価した。
プロスペクティブ試験
25頭の健常猫(雄12頭、雌13頭)が組み入れられた。平均年齢は4.3歳、平均体重は4.6kgであった。
姿勢とLL/T11
伸展、中立、屈曲姿勢ごとのLL/T11(平均値)は下表のとおり。
群間で有意差は認められなかった。
項目 伸展 中立 屈曲
LL/T11 4.01 4.11 4.03
横臥の向きとLL/T11
RL、LLとLL/T11は下表のとおり。
群間で有意差は認められなかった。
項目 RL(右横臥位) LL(左横臥位)
LL/T11 4.11 4.12
撮影範囲(腹部、胸部)とLL/T11
腹部、胸部撮影とLL/T11は下表のとおり。
群間で有意差は認められなかった。
項目 腹部撮影 胸部撮影
LL/T11 4.11 4.15
LL/T11とCTでの肝臓容積
CTで算出された平均肝臓容積は78.12cm3であった。LL/T11とは有意な正の相関関係が認められた。また、最も強い相関関係が認められたのは中立での右横臥位であった(R2=0.4632, P<0.001)。
レトロスペクティブ試験
324頭の健常猫が組み入れられた。平均年齢は4.9歳、平均体重は4.7kgであった。雄が167頭、雌が156頭でBCSの分布は1が18頭、2が96頭、3が111頭、4が75頭、5が24頭。324頭のLL/T11の平均値±標準偏差は4.22±0.54であった。
年齢、体重、BCS、性別のLL/T11に及ぼす影響
年齢、体重、BCS、性別はいずれもLL/T11に有意な影響を及ぼさなかった。
結論
これらの結果から著者らは、LL/T11はCTでの肝臓容積と相関関係が認められ、定量的な肝臓サイズの評価方法に用いることができるであろうと報告している。また、猫の姿勢や向き、撮影範囲の影響も少なく、年齢や体重、BCS、性別による影響も受けなかったと述べている。今後、肝疾患に罹患した猫での研究が期待されるとしている。
- Highlights
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健常猫25頭によるプロスペクティブ試験と324頭によるレトロスペクティブ試験
猫の姿勢や横臥の向き(LL, RL)、撮影範囲、年齢や肥満のLL/T11に対する影響を評価
CTでの肝臓容積とLL/T11は有意に正の相関関係にあり
姿勢や向き、撮影範囲はいずれもLL/T11に影響せず
年齢、体重、BCS、性別も影響せず
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/vru.12803
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。