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短頭種気道症候群の犬に対する術前手術リスク評価方法についてアメリカのJason Tarricone氏らは、233頭の短頭種気道症候群の犬を用いて術前短頭種リスク(BRisk)を開発し、リスク評価を行った。その結果、負の結果(術後合併症および死亡)とBRiskは有意に相関し、BRisk>3の犬は3以下の犬と比べて9.1倍リスクが高まることが明らかになった。結果はVeterinary Surgery 2019年10月号に掲載された。(評価方法は後述)
研究の背景
短頭種は米国、英国、日本において人気の犬種であるが、一方で短頭種特有の上部気道機能不全に関連する死亡率が高く、他犬種と比べても若くして死亡することが疫学的な研究結果から明らかになっている。短頭種気道症候群に対する外科的な治療法としていくつかの方法がこれまでに報告されているが、死亡率は3.2~7.0%と比較的高い。また短頭種の人気の高まりや手術手技の進歩に伴い、術前のリスク評価や飼い主へのインフォームは必要となってきている。過去にもいくつかのリスク評価方法が報告されているが、臨床的な汎用性が低い難点があった。そこで著者らは短頭種気道症候群の犬を用いて術前のリスク評価方法を作成し、その精度を評価することを計画した。
本研究には、2007年7月から2018年1月までに外科手術を受けた短頭種気道症候群の犬をレトロスペクティブに組み入れした。なお、対象とした外科手術の種類は口蓋垂切除、喉頭室切除術、鼻翼形成術、扁桃切除術、喉頭蓋固定術、胃固定術、声帯切除術またはこれらの組み合わせとした。
データ収集
過去に報告されているリスク因子を中心に、組み入れられた犬のシグナルメント、投薬歴、来院理由、身体検査所見、画像・血液検査結果など31の項目と手術後の予後との関連性について評価を行った。
BRiskの作成
上記データ分析から得られた6つの変数(品種、過去の手術歴、同時に行った手術、ボディコンディションスコア、気道の状態、入院時直腸温)について、2015年11月から2018年11月の間に短頭種気道症候群の手術を受けた別の犬を用いて、これらの変数から算出したスコア(BRisk)と予後(負の結果)予測精度を評価した。
予後
負の結果は以下のように定義した。
・48時間を超える術後の酸素補給の必要性
・一時的ないし永久的な気管切開の必要性
・死亡
本研究には233頭の短頭種気道症候群の犬が組み入れられた。これらの犬で負の結果(上述)が発生したのは30頭であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、6つの項目が独立した予後予測因子として得られた。これらの項目についてそれぞれ下表のようにスコア化を行った(BRiskスコア)。
BRiskスコアと予後予測精度の評価研究には50頭の短頭種気道症候群の犬が組み入れられた。これらの犬のうち、5頭で負の結果が発生した(3頭は気管切開、2頭は死亡)。BRiskスコアは負の結果と有意に相関した(P=0.01)。BRiskスコア>3の犬は3以下の犬と比べて負の結果が発生するリスクが9.1倍高かった。
感度・特異度
BRiskスコアと負の結果発生予測に関する感度・特異度は下表のとおり。
カットオフ値 感度 特異度
スコア4 70.2% 81.1%
スコア5 42.86% 93.55%
結論
これらの結果から著者らは、短頭種気道症候群の手術を受ける犬の術前リスク評価として、10段階のBRiskスコアは正確に評価できることが明らかになったと報告している。このスコアを用いることで飼い主への情報提供や今後の臨床研究に役立つであろうと述べている。
- Highlights
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短頭種気道症候群の犬の術前リスク評価方法の作成、予測精度を評価
過去に手術を実施した犬233頭+50頭を調査
6つの変数(品種、過去の手術歴、同時に行った手術、BCS、気道の状態、入院時直腸温)が独立して予後に関連
これらを基に算出したBRiskスコアは術後予後と有意に相関
論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/vsu.13291
※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。